遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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三女神伝説再考(其の一)

三女神伝説再考(其の一)_f0075075_20442947.jpg
今回の安倍宗任に関連して、もう一度遠野に伝わる三女神伝承を見直してみたい。画像は、早池峯神社の祭壇。早池峯神社は現在、早池峯大神を祀っているのだが、この後ろに三山の社が並んでいるのは以前、三山の三女神を祀っていたという事になろうか。まずは、この前紹介した安倍宗任絡みの伝承を精査したい。
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安倍宗任の妻「おない」の方は「おいし」「おろく」「おはつ」の三人の娘を引き連れて、上閉伊郡の山中に隠れる。其の後「おない」は、人民の難産・難病を治療する事を知り、大いに人命を助け、その功により死後は、来内の伊豆権現に合祀される。三人の娘達も大いに人民の助かる事を教え、人民を救いて、人民より神の如く仰がれ其の後附馬牛村「神遺」に於いて別れ三所のお山に登りて、其の後は一切見えずになりたり。それから「おいしかみ」「おろくこし」「おはやつね」の山名起これり。此の三山は神代の昔より姫神等の鎮座せるお山なれば、里人これを合祀せしものなり。
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この安倍宗任絡みの伝説を読んで、下記の「遠野物語(二話 抜粋)」と重なるものと感じる。
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大昔に女神あり、三人の娘を伴ひて此高原に来り、今の来内村の伊豆権現の社にある処に宿りし夜、今夜よき夢を見たらん娘によき山を与ふべしと母の神の語りて寝たりしに、夜深く天より霊華降りて姉の姫の胸の上に止まりしを、末の姫目覚めて窃かに之を取り、我胸の上に載せたりしかば、終に最も美しき早池峯の山を得、姉たちは六角牛と石神とを得たり。若き三人の女神各三の山に住し今も之を領したまふ故に、遠野の女どもは其妬を畏れて今も此山には遊ばずと云へり。
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しかし、「遠野物語 二話」に記されている霊華の話は、安倍宗任の伝説には記載されていない。この霊華の話は、下記の蛇神の伝説に登場している。
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来内に六陸田という地があり、ここは太古は池であった。この池に、お早、お六、お石という三匹の蛇がいた。この蛇たちは水神でもあったから、遠野三山の水源で神になろうと、この六陸田の地から一直線に天ヶ森へ経て、長峰七日路に水無しという水の無い峰を越え、現在の神遺峠の神分の社に来て泊まった。蛇たちは、天から蓮華の花が降ってきた者が、早池峰の主になる事にしようと話し合って、眠りに就いた。明け方近く、それは姉の胸に降ってきた。ところが、末の妹の蛇は、寝ずに待ちうけていてすぐに起き上がり、それをそっと自分の胸に置いて、寝たふりをした。みんなが目を覚ました時、末の娘の蛇は、約束通り、天の神が私を早池峰の女神に選びましたと言って、早池峰に飛び去った。姉は怒って早池峰と背中合わせの、一番低い石上山の、中の姉は六角牛の女神になった。この為、遠野三山は、女が登れば妬み、男の登るのを喜んだので、女人禁制の山になったという。
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三女神伝説再考(其の一)_f0075075_18571637.jpg
安倍宗任絡みの伝説と蛇神の伝説を足したのが、どうも「遠野物語(二話)」になるのではなかろうか。ただ気になるのは、伊豆神社のある来内という地域である。この来内という地には、蕨峠から入る事が出来る。蕨峠を下って来ると、画像の様に前方に聳える六角牛山が目に付く。ところが、この来内の地からは早池峯山と石上山は、まったく見えない。ただし伊豆神社は、早池峯の神を祀った事から、遠野三山ではなく、あくまで早池峯を祀る神社であったのだろう。しかし何故か視界には、六角牛山だけが入る不可解さである。ただ天台宗の影響下にある信仰であるならば、北を重視した信仰であったろう。つまり、目に見える山では無く、あくまで北方を信仰し、そこに聳える早池峯を重視していた為に建立されたのが伊豆神社であろうか。ある意味伊豆神社は、早池峯遥拝所としての立ち位置なのかもしれない。

上記の蛇神を除いた二つの伝説には、既に伊豆権現があったという前提からの伝説である。つまり三女神は、早池峯の姫神一柱の信仰が後で三女神に分離されたものと考えられる。ところで、気になるのは伊豆という語源だ。伊豆神社の伊豆の語源は、遠野の先人で有名な学者である伊能嘉距のアイヌ語の転訛説を一般的としている。アイヌ語の「山の鼻」という意味の「Etu(エツ)」より、山の鼻に鎮座する神「エツ、カムイ」と呼ばれたものに、後から「伊豆」という漢字があてられて「伊豆の神」と呼ばれて、後に伊豆から飛んできたという神話が発生したものだというもの。これには伏線があり、伊豆神社の鎮座する地名を「来内」と云い、やはりアイヌ語の「ライ・ナイ(死の谷)」という意味がある為なのか、この来内一帯をアイヌ語の普及している地と考えたのかもしれない。また「伊豆(いず)」は「出雲(いずも)」と類似している事から、信仰的な要素から付けられた名の様にも思える。その出雲の語源は、「出る」もしくは「斎つ」から来ているとも云われるが、気になるのは音で重複する「飯綱(いずな)」だ。飯綱は飯綱権現でもあり、元々は長野県の飯綱山の山岳信仰が発祥とも云われる。飯綱権現に関して一番古いとされる室町時代の頃の文書に「戸隠山顕光寺流記并序」には、こう記されている。

「吾は是、日本第三の天狗なり。願わくは此の山の傍らに侍し、九頭竜権現の慈風に当りて三熱の苦を脱するを得ん。須らく仁祠の玉台に列すべし。当山の鎮守と為るらん。」

仏教色の強い文章だが、これによれば、飯綱は天狗であるとしている。天狗の古くは「日本書紀」に記されている「天狗(あまつきつね)」であり、その正体は彗星とされていた。そして飯綱権現は、九頭竜権現に影響を受けたとなっているが、その九頭竜権現もまた星に関係する。天台宗の三井寺による"尊星王法"は、龍に乗った女神の姿で表されている。その竜は、北辰であり、北斗七星の姿であると。それがしばしば"九頭竜となって地上に降臨し"、三井の尊星水を守護したという。この龍に乗った女神は、三井法流では吉祥天女とされている。

この星に関係しそうな飯綱権現は、伊豆那権現とも書き表す。調べると、九州では"伊豆奈"と書いて「いとな」と訓み、"金星"を意味していた。伊豆奈が「いとな」と訓むとなれば、アイヌ語の「えつ」にも似通ってくる。アイヌ語の「えつ」が山の鼻を意味するというが、別に「えつ、かむい」として神が坐すと考えられるのは、「えつ」が山の中でも特別な意味を持つからだと思えるのだ。以前「朝倉」を調べた時、朝倉は朝座であり、星見の山であったのを思い出す。神は、しばしば天体とも重ねられた事を考えれば、アイヌ語の「えつ、かむい」は、何等かの天体が昇り、山と重なった時の状態を意味しての「えつ、かむい」であるのかもしれない。遠野で嬰児籠は「えじこ」と訓むが、場所が変れば「いじこ」とも訓む。また飯詰は「えづめ」とも「いづめ」とも変化する事からも、「いと」と「えつ」は非常に似通っている。恐らくだが、アイヌ語の「えつ、かむい」は星の昇り立った、もしくは降り立った山の場所を意味したのではなかろうか。そして、伊豆奈が金星を意味するのであれば、それは遠野の伊豆神社が、金星であり太白信仰から建立された神社ではなかっただろうか。

by dostoev | 2019-02-28 13:09 | 三女神伝説考

瀬織津比咩の祭祀其の四十五「三ツ石神社(早池峯の女神影向石)」

瀬織津比咩の祭祀其の四十五「三ツ石神社(早池峯の女神影向石)」_f0075075_05250255.jpg
伝説によると、昔この地方に羅刹という鬼が住んでいて、付近の住民をなやま
し旅人をおどしていました。そこで人々は、三ッ石の神にお祈りをして鬼を捕
らえてもらい、境内にある巨大な三ッ石に縛り付けました。鬼は二度と悪さを
しないし、又二度とこの地方にはやって来ないことを誓ったので、約束のしる
しとして三ッ石に手形を押させて逃がしてやりました。

この岩に手形を押したことが「岩手」の県名の起源といわれ、又、鬼が再び来
ないことを誓ったので、この地方を「不来方(こずかた)」と呼ぶようになったと
伝えられています。鬼の退散を喜んだ住民達は幾日も踊り、神様に感謝のま
ごころを捧げました。この踊りが「さんさ踊り」の起源ともいわれています。

                      「三石神社案内板」

瀬織津比咩の祭祀其の四十五「三ツ石神社(早池峯の女神影向石)」_f0075075_05251449.jpg
岩手の県名になったとも云われる三ツ石神社の三つの石。これは三ツ石様とも呼ばれる、鬼を退治した石でもある。何故急に、盛岡の三ツ石神社を取り上げたかというと、ここにきて盛岡の早池峯神社に伝わる「早池峯神社略縁起」が気になったからである。この「早池峯神社略縁起」は、岩手神社庁だけに伝わり、一般的には広まってないものである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そもそも新山大権現之本地を尋ね奉るに、人王五十代桓武天皇延暦十四年乙亥三月十七日當山江、三柱姫神達、天降満します也。新山と申すは古起松杉苔むし老いた流枝に蔦蔓生え登り、山葉に曳月はかすかに見ゆ木魂ひびき鳥の聲あたかも、深山幽谷の如し。南に北上川底清く、水音高く御手洗也。雲井に栄え登る月影浪に光を浮かしめ、北は千尋に余る、廣野と萩薄生え繁。是を名付けて、新山野と申す也。

四方青垣山にして宝殿棟高く、御床津比の動き鳴る事なく豊明に明るい座満たして宣祢禰宜の振鈴、いや高く響、茂あらたなり今茂かわらぬ。三つの石あり、三柱姫神鎮座満します。故是を影向三神石と申す也。

然に氏御神天降給故を尋ね奉るに、東国魔生変化の鬼神充満し、多くの人民をなやまし、国土を魔界に成さんとせしを、天帝聞し召せ給、田村大明神を天降し、悪魔化道退散なさしめ、国土を治め給いしとかや、弘仁二年巌鷲山田村大権現と顕れ給い妃神を王東山大権現と顕し給いしとかや、其の御子三柱の姫神當山鎮座満しまし給、姫神達折々四方を御詠有りし遥か東方に雲を貫く高山あり。旭の光々たり、月の満々たるも、峰の高きを貴み給いて曰く我等山川の清を求め峯の高きに登り末を守らん。爰に我等の三躰を残し置くと宣いて、東方へ行幸ありしとなん。

人民肝留以催し、跡伏し拝み、悉く信心す時に姫神達東山に登給いれるに、童子一人顕れ、かれに山々を問わしめ給へば、童子指さし向に見ゆるは、於呂古志山、何方は大石神山此方は早池峯山と申す三つの山也。中にも峯高く絶頂盤石四方巌々として空にそびい鳥類翼を休めがたし。閼伽井より冷泉湧き出る是を名付けて早池峯と申す也。常に紫雲靄起こし、音楽の音止まず。折々天人舞い下り、不測之霊山也と言うを終わらず、虚空に上り雲中に声有。我は、是一の路権現なりと失せ給ふ御跡拝み伏す。

天に向かい此の三つ山、授け霊験を下し給いと祈り給へば、不測屋奈末の妹神の御胸に八葉の蓮華光曜として、天降蓮華の?に舞光を放ちて飛び、早池峯山大権現と顕れ給い、姉神は大石神山大権現と顕れ、第二姫神於呂古志山大権現と顕れ、国土を守り給いとかや況や御神徳著しき事、當社に先魂坐す故當社を早池峯新山大権現と齋奉流也。又神道には、瀬織津姫也大権現と書て大権現と讀み奉る也。古今の霊場にて弥陀薬師観音の三像相殿に敬い奉る事、其の徳社に満りと云々。

                          【早池峰神社略縁起】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この「早池峰神社略縁起」の冒頭部分から、この縁起は盛岡土橋の早池峯神社に関するものだと簡単に思っていたが、よくよく読むと違う事が理解できる。総じて言えば、遠野三山の由来でもあるこの縁起書の最初に三柱の女神が影向した石が紹介されている。その場所は、土橋というわけではなく「四方青垣山」という記述から、どうも盛岡全体を示しているものと理解できる。その四方青垣山に囲まれた地(盛岡)に、三つの石があると。

三つの石あり、三柱姫神鎮座満します。故是を影向三神石と申す也。

時代は、坂上田村麻呂時代となる。その時代に鬼退治をしたというものであるが、早池峯の女神である瀬織津比咩の岩手県における古い歴史は、鬼の平定の為に養老二年、熊野から室根山へ運ばれて来た事であった。鬼を平定した三ツ石神社の三ツ石様が何故に三つの石なのかは、どこにも伝わっていない。土橋の早池峯神社にも、その三つの石は無い。鬼を平定した三つの石として伝わるのは、三ツ石神社の三ツ石様以外にないではないか。恐らく三ツ石神社の三つの石に、早池峯の女神を中心とする三女神が影向したものと思われる。岩手県には、早池峯を中心とする三女神伝承がいくつかあるが、本来は早池峯の女神である瀬織津比咩から始まったものが、この「早池峯神社略縁起」を基点として、三女神伝承が広まった可能性もあるかもしれない。ただ、この「早池峯神社略縁起」のスタンスが、あくまで盛岡地区を中心としている事に加えて、かって東峯と呼ばれた早池峯山を「東方の雲を貫く高山」と紹介している事から、早池峯山が当初、東峯と呼ばれた原型であるのかもしれない。ともかく、今まで気にしていなかったが、この三ツ石神社の三石に、早池峯の瀬織津比咩は降り立ったものと思って良いのではないか。

by dostoev | 2019-02-04 06:12 | 岩手県の瀬織津比咩