遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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池之端(其の五 余談)

池之端(其の五 余談)_f0075075_18000615.jpg
池端氏が秦氏ではないかと書いたが、それに関して気になるのが愛宕山だ。遠野の西の外れにあり、綾織町新里に属する山で、頂には創建年代がはっきりしない愛宕神社が鎮座している。池端家に伝わる話では、危難を鮭の背に乗って助かり辿り着いたのが愛宕山の麓、水神を祀る倉堀神社。ここは愛宕神社の飛地でもある。また「遠野物語拾遺136話」では、愛宕山の麓である鍋坂で村兵が仏像を背負って愛宕山の頂に祀ったところ金持ちになったという話。どうも愛宕山を起点に、長者譚が発生しているようにも思える。

その愛宕神社だが「遠野市史」によれば、延宝七年(1679年)南部直栄が再興したとの記録がある事から、創建はそれ以前の事になる。愛宕神社に関する伝説には源義経も登場する。遠野の民が火難に苦しんでいる事から、源義経が遠野の民を思って建立したとの伝説がある。源義経伝説となると眉唾物だが、阿曽沼時代まで遡る可能性を秘めているという事にもなるだろう。
池之端(其の五 余談)_f0075075_18282517.jpg
「遠野市史」「陸中国閉伊郡新里村」を読んでみると「山」として「七曲山」があり「村の北にあり、登路三町二十零間、鵢崎・光興寺の両村に跨る。」と記されている。全国的に七曲を調べると、その殆どは妙見信仰との繋がりを示している。その七曲山とは、現在トオヌップ展望台がある高清水山である。上の画像であれば、手前が鏑木山で、その後ろが七曲山となる。山名というものは、その地域ごとに呼び名が違うもの。例えば、遠野の南に聳える物見山は、小友町側からは長富士と呼ばれていた。
池之端(其の五 余談)_f0075075_16520119.jpg
高清水山もまた「まつざき歴史がたり」によれば、どうやら鶴音山と呼ばれていた様である。ただ、この「鶴音山」の読みなのだが、「つるねやま」「つるねさん」と伝わっている場合とは別に、地域の古老に聞いたところ「がんのんやま」と述べていた。「鶴」は一般的に訓読みで「つる」と読み、音読みで「かく」と読む。「がんのんさん」と述べた地域の古老の発音は「か」に濁点が付いている為、本来は「かんのんやま」の可能性もあるだろう。「鶴」を音読みした場合「鶴音山(かくおんやま)」となるのだが、もしかして本来は「観音山(かんのんやま)」の可能性もあるかもしれない。

ともかく、この高清水山が新里村からは、北に聳える七曲山と伝えられていたという事実。七という数字は北斗七星を意図している場合が多い。七曲という表記も、北斗七星の形状を意図した表記である事。ただ、そういう意味とは別に、単に北という方位を意味する言葉として七曲山と名付けた可能性もあるだろう。
池之端(其の五 余談)_f0075075_16583553.jpg
愛宕山に鎮座する愛宕神社の屋根には、九曜紋がある。妙見系の家紋には九曜・七曜・月星などの変化があるが、これは南部氏の家紋からきていると云われる。事実、阿曽沼に代わってから明治時代に至るまで南部藩が統治していた遠野であるから、その影響は当然の事だろう。ただ、早池峯山に祈願して金を求めた始閣藤蔵の信仰は、妙見信仰そのものであった。産金・冶金と妙見信仰は古くから深い関係にあった。
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徳川家康の懐刀に、秦氏の末裔である大久保長安がいる。大久保長安は、石見銀山の隆盛をもたらし、佐渡金・銀山をも発展させた人物である。その大久保長安は、河川や海上の交通網の整備に尽力したそうである。その整備の拠点であり監視を、全国に多くある愛宕山の頂にからしたそうである。事実、佐渡の港を見下ろせる愛宕山などに石塔を建てている。
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遠野の愛宕山の麓には、猿ヶ石川が流れている。この愛宕下は、大正時代頃までには木流で運ばれて来た木材が溜まる場所でもあった。植野加代子「秦氏と妙見信仰」によれば、妙見菩薩の所願の一つに航路の無事を願うというものがあると記されている。

古代の豪族である秦氏は、応神天皇の時代に日本に渡ってきたと伝えられる。しかし他の渡来人とは違ったのは、政治の世界にはあまり顔を出さずに、殆ど商人・職人としての顔がうかがえる。その秦氏は、かなり古い時代から妙見信仰に関わり、そして海上河川などの水上の物資運搬を手掛けてきた。
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例えば現在新町の常福寺には、両川覚兵衛が愛宕神社に奉納したとされる愛宕延命地蔵がある。この延命地蔵は京都の仏師に頼み、海路はるばる釜石まで運ばれたそうである。その京都からの海路を調べると、殆どが秦氏が古代に築いた海運の拠点を経由している。この愛宕延命地蔵を愛宕神社に奉納した両川覚兵衛は本来、小原氏のわかれだとされるが、突き詰めればもしかして秦氏の末裔の可能性もあるのかもしれない。秦氏は仏教を信じ、更に稲荷神社・愛宕神社・白山信仰、そして松尾大社etcを創建している。遠野の六日町の神明に鎮座している松尾神社は、この両川覚兵衛氏の勧請によるものだ。様々な神仏がおり、神社があるのにも関わらず、両川覚兵衛は何故松尾神社を勧請したのか。それを裏付ける理由が、秦氏の末裔であったのならば納得できるというものだろう。
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愛宕山の麓で、我が丸寄りを鍋坂という。秦氏の建立した大避神社が鎮座する地は、坂越という。「坂」は「避」と同じく「境」を意味する。そして「鮭」もまた同義である。「遠野物語拾遺136話」で、その当時貧しかった村上兵右衛門が「背負って行け」という言葉を発する地蔵を背負って愛宕山の上に祀ったところ金持ちになったという長者譚は、ある意味村上兵右衛門が愛宕山の麓の境界から異界と繋がった話になるだろう。それはある意味「遠野物語63話&64話」での「マヨヒガ」の話にも通じる。菊池輝雄氏は、山中で異界に迷い込むマヨヒガの話は秦氏が持ち込んだ話であるとの見解を示していた。そのマヨヒガの話が伝わる琴畑集落は、畑仕事の合間に琴を奏でた秦氏から付いた地名であると。山中の屋敷は、「遠野上郷大槌町物語」にも書かれているように金山開発に関わる屋敷の可能性が高い。石見銀山の開発も、秦氏と妙見信仰が関わっている事。長者譚の多くは、秦氏の多岐にわたる技術力を背景とした話が多いと思える。池端氏を筆頭とし村上氏や両川氏などは、それらの伝承から秦氏の末裔であった可能性を否定できないのではないか。

by dostoev | 2022-12-31 13:26 | 池之端
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