昨日の午後、食堂を閉めた後に急いで笛吹峠へと向かった。「遠野物語3話」の場所を特定しようと思ったからだった。
峠の途中に、不動明王を祀ってある鳥居と祠がある。この奥に下の渓流へと下る獣道があるので、早速降りてみた。
ここは木々に覆われているので、昼間でも薄暗い感じがする。また、日があまり差さない為か、湿気が多く、足場も水分を含んでいてゆるく、何度も滑りそうになった。
やっと下にある渓流に降り立った。やはり薄暗い、嫌な感じの渓流だ。ただ、水面を走る岩魚の魚影がかなり濃い。歩くたびに、岩魚が走っているのが、嫌でも目に付く。
降りてきた上の方を見上げると、細かな石が沢山ある。日中でも日が差さない為に地盤が緩いので、この石もかなりの確立で滑落してくる事だろう…。
基本的に水深は浅い。いくつかプール状になっている箇所は、そこそこ深いが滑って転落し、深みにはまる心配は取り敢えず無さそうだ。
上空を見上げても、空は木々に隠されてなかなか見る事ができない。
暫らくすると、車の残骸があった。ここは昔から自殺の名所というか、車でこの崖に転落し、死んでいった人たちもそれなりにいるのは知っていた。この車の年代は、昭和40年代から50年代前半くらいだろう…。
それと笛吹峠の名前の由来のひとつに、冬季に転落して死んだ座頭の話がある。助けを呼ぶのに、手にしていた笛を吹き続けたが、吹雪の音にかき消され、そのまま雪に覆われて死んでしまった座頭の話…。
とにかく転落して、知っている限り数人の命がここで亡くなったのは知っている。
この車の残骸の上は崖になっていて、石がゴロゴロ転がっている。雨や風、更に地震などの影響で、石が転がり、何度もこの車の残骸を直撃しているのだろう。
また暫らく歩くと、明るい場所に出た。上を見上げても邪魔な木々は見えない。小さな滝があり、そこには寝転がっても大丈夫そうな大岩がある。
「遠野物語3話」の舞台は、オガセの滝では無いか?という事だが、女が櫛で髪を梳いていたのは、当然髪を洗った後に太陽の光を浴びてのものなのうだから、自分としてはこの大岩の場所が「遠野物語3話」の舞台ではないのか?と思う次第だ。
途中、脇からの渓流の合流があった。水量は少ないが、今年の遠野の雨量を考えるとこんなものなのかもしれない。逆に、水量が少ない為に、今回の遡上行動も楽だったのかもしれない…。
フト気付くと、立ち枯れのミズナラの木が、かなり目に付く。これはもしかしてクワガタ採集に絶好の場所なのかも…。しかし今回は、採集道具は持ってこなかったので、クワガタ採集は見送る事にした。
こういう低い段差の滝が、いくつも点在している。
途中、水深が足首くらいの場所があったので、この水の中を歩く事にした。ところが歩くたびに、潜んでいた岩魚が水音を立てながら、慌てて隠れている様子が目に入る。こんな浅瀬にも岩魚がいるという事は、普段は安心して岩魚達が生活しているという事。つまりこの地には、釣り人もなかなか降り立って釣りをしていないのだろうなぁ。とにかく、魚影が濃すぎる。
ミズナラ以外には、シダ類の植物が目に付く。
すると…渓流沿いに道が現れた。もしかしてこれが旧道なのだろうか?
暫らくこの道を歩くと、左前方に廃屋が現れた。こんな場所に…と思い近寄ってみた。
いつの時代まで使用されたものだろう?すっかり朽ち果てて、家としての機能は果たせない崩壊ぶりだ。
中には釜などが転がっており、森林の手引書もあった。どうやら営林署の方々が山作業などで泊まったりした小屋なのだろう。すると昭和50年代後半まで使用されたのかもしれない。
この小屋の近くに、再び廃車を発見した。ただ比較的破損が少ないので、多分だが営林署の人達が使用して、この地に乗り捨てられた車なのだろう。
更に遡上すると、遠くの前方に水音をさせて影が右方向へと走った。見るとそこには、大木がある。黒い影みたいなので、自分の頭の中には熊という意識が走った。とにかく熊の写真を撮りたいので、恐る恐るではあるが、その大木に近寄ってみた。そこには地面に面した場所に洞があった。なんか動物が身を潜めていそうな洞である。
ただ、大型の熊は入れるかどうかの穴なので、どこか安堵感を持ちながら洞の写真を撮影してみた。ただ、穴を覗き込むというのは怖くてできなかった。何かが飛び出
しそうな気がしたので…。
上に遡上すればする程、水量が減っていく。つまり源流は近いのかもしれない。
あちこちに倒木が目に付くようになってきた。つまり、人がというか、営林署の人間もずいぶんの間、この地に足を運んでないのかもしれない。
ここでは里に多い杉の木は皆無だった。昔ながらの原生林が周囲を覆っている。
ところがフト見ると、立ち枯れのミズナラが何者かに削られている姿を目にした。これはクワガタ採集者が入った痕なのだろう。釣り人も滅多に入らぬこの渓流に、実はクワガタ採集者は入り込んでいたのだなぁと。「人のいかぬところでも、釣り人の行かぬ場所は無い。」という諺?があるが、これでは「釣り人の行かぬ地でも、クワガタ人の行かぬ場所は無い・・・。」となってしまう(^^;
その後、源流域に辿り着き、水はまったく見えなくなってしまった。そこで遡上を諦め、元の場所へは戻らずに途中から上方にある道路方面へと崖を上っていき、今回の笛吹峠下の渓流遡上体験は終了となった。