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「冥界との縁結び(其の十一)結」![]() 倉掘神社の"御利益"が縁結びであったのだが、文久年間(1861年~1864年)に普代村から縁結びで有名な卯子酉神社が勧請された。縁結びの御利益のある倉掘神社に、やはり縁結びで有名な鵜鳥神社が勧請され、それから神社名を卯子酉神社に変更したようだ。神社名を「鵜鳥神社」ではなく「卯子酉神社」にしたのは、それなりの拘りがあった為だろうと察する。ただし、この鵜鳥神社が勧請された文久年間は、1861年に大洪水が起き、それから大凶作と麻疹が流行り、遠野では多くの死者が出た、大変な時代であった。そんな時代に何故、普代村から縁結びの神を勧請し、神社名をも変えてしまったのか。恐らくだが、天保六年(1835年)に完成した堤防も決壊したと考えられる。遠野の歴史を顧みても、基本的には治水の歴史である。水を支配し、それをどう有効利用するか。その為には決壊した堤防を再び造らねばならなかっただろう。そんな時に、縁結びの神を勧請するというのは、考えられない。鵜鳥神社は、海上安全の神でもあるから水難除けにもなるのだろうが、海上から河川へというのも猿ヶ石川の治水を考えた場合、違和感を覚える。 ただ気になるのは「鵜鳥神社御縁起」の内容だ。源義経一行が、その地に辿り着いた時"朝夕紫雲のかかる西北の山を尋ねた"とある。その尋ねた山がそれと似た様な伝承が、やはり源義経一行が治承4年、武運を祈る為、村崎大明神を訪れたのだが、その時に源義経は藤花の紫色に染まった紫雲山にちなんで、社名を紫神社と改めたとの伝承を彷彿させる。この紫神社に祀られる神の本来は、松島大明神といい、安倍氏の祀っていた神でもあった。奥州藤原氏の祖である安倍氏の流れを汲むものであるから、源義経もまた紫神社へと参詣したと思うのだが、その系譜が鵜鳥神社へと受け継がれている気がする。その鵜鳥神社の本尊は、右手に白旗を持ち、左手に宝珠を持つ女神立木像であるという。「狐と瀬織津比咩」で書いたが、宝珠の系譜は塩盈珠・塩乾珠から来ており、鵜鳥神社の祭神に鵜萱葺不合命と玉依姫がいるように、海神祭祀が入り込んでいる。そして紫神社の松島大明神も、九州の安倍氏伝承の流れから與止日女と結び付く事からも、恐らくは「肥前風土記」に関係する與止日女神社の流れを汲んでいるのではなかろうか。 例えば「遠野物語拾遺33」も「肥前風土記」の流れを汲むものである。源義経の辿り着いた紫神社の創建は、大同元年であるようだが、東北の神社の歴史は大同年間から始まる。これは坂上田村麻呂が蝦夷国を平定して後、中央の文化が流れ込んで来た事から、神社の祭祀が始まった為でもある。その流れを察すれば、紫神社も鵜鳥神社も「肥前風土記」から発祥した與止日女神社の影響からの創建だろう。ただ、その與止日女だが、岩手県に多くの菊池氏が存在する事に関係するかどうかはわからぬが、九州菊池氏の主流である日下部氏が奉祭する母神に、蒲池比咩がいる。蒲池比咩(かまちひめ)は肥前国一宮である川上神社に祀られる與止日女(よどひめ)と習合していた。そして筑前糸島の桜井神社(與止日女宮)」で川上の與止日女は、瀬織津比咩と同神とされている。つまり與止日女とは、早池峯大神と同神であるという事になる。また、鵜鳥神社の御本尊が白旗を持つのだが、白旗は源氏を示すものであり、その根源は石清水八幡宮である。その石清水八幡宮は、その鎮座していた地名"白幡森"から白幡八幡宮と呼ばれていた。その白幡八幡宮の祭神は「淀姫神」となっている事からも、鵜鳥神社は與止日女と繋がるのだと考える。紫神社と鵜鳥神社の両神社に、源義経伝説が重なるのは偶然では無いだろう。その源義経伝説の背後には、奥州藤原氏の祖である安倍氏の信仰の導きが重なって来る。 ![]() 片葉の葦に、願いを書いた紙を結ぶ事で縁が結ばれた、というのが倉掘神社時代当初の縁結びの呪いであったようだ。いつからなのか、赤い布切れを使用するようになった。赤は、血の色、炎の色でもある。陰陽五行とすれば火気を意味し、方角は南であり、季節は夏。また古代から丹の色として、広く伝わっていた。また陰陽五行発祥の中国では、赤色はめでたい色として現代でも広く親しまれている。しかし、陰陽五行が伝わった日本では、赤色は必ずしもめでたい色だけではない。これは日本独自の解釈で起こったと云われるが、赤い色は「新生」を意味する。この新生の意味には、死んで生れ変る事も含む為、死の匂いが立ち籠るのであった。例えば、赤い鳥や赤い色は、死に関わりを持つと知られるのは、やはり血をイメージする為だろうか。例えば、名前を赤い文字で書いてはならないなどがある。また柳田國男「野鳥雑記」には、赤色を有する鳥が不吉を連想させる様々な事が書かれている。その吉凶を意味する赤い布切れを結ぶ事で、縁が結ばれるとされるのが、現在の卯子酉神社の呪術となっている。「結ぶ」は、息子や娘、または苔生すと同じ意味を持ち、万物を生み出す、もしくは成長させる意がある。そういう意味から"縁結び"とは、相手との関係を成長させる意味からも、血の契りとしての赤色が使用されるのは理解できる。 卯・子・酉は陰陽五行で言えば、それぞれ木・水・木である。五行とは、火・水・木・金・土であるから、火と土があれば五行循環がかなう。その火は、恐らく赤い布切れがそうであろう。倉掘神社であり、後に卯子酉神社となったのだが、その縁結びはあくまでも表面的な御利益に過ぎないと考えている。先に述べた様に、鵜鳥神社が勧請され、卯子酉神社になったのは、あくまで大洪水がきっかけであったと考えるからだ。陰陽五行で、水を剋するのは土だ。その土の強化の為に、鵜鳥神社が勧請された筈である。 ![]() ![]() ![]() 「万葉集 巻十七 3941」に、下記の様な歌があった。歌の意味は「鶯が寂しく鳴く崖の底の谷、その深く暗い谷に身を投げこんで焼け死ぬほど苦しくても、あなたをひたすらお待ちしています。」生きている女性の激しい恋心を詠ったものだが、この卯子酉神社に埋められているだろう女性の心情にも感じて、敢えてこの歌を添えようと思う。 鶯の鳴く暗谷にうちはめて焼けば死ぬとも君をし待たむ ![]()
by dostoev
| 2019-11-25 22:26
| 冥界との縁結び
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