遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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童子(ワラシ)と花子さん

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何故か最近、以前書いた記事遠野小学校発祥「トイレの花子さん」へのアクセスが急激に伸びている。確かに妖怪としての「トイレの花子さん」が発生した可能性を感じる遠野での事件であったが、それ以前から"その学校の跡地"では、"座敷ワラシ"が出ると云われた地でもある。佐々木喜善の調査では、遠野小学校がまだ南部家の米蔵を使用していた時"夜の九時頃になると、玄関から白い衣物を着た六、七歳くらいの童子が入って来て、教室で机や椅子の間などを潜って楽しそうに遊んでいた"という。ただし、その当時は"子供の幽霊"が出るという噂であったらしい。佐々木喜善は噂の子供の幽霊を座敷ワラシであろうと考えていたようだが、その答えはわからない。時代を経て、昭和12年の事件以降、遠野小学校のトイレに出る幽霊を、後の世に「トイレの花子さん」と重ねてしまうのは仕方ない事だろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昔遠野の六日町に火事のあつた時、何処からともなく小さな子供が出て来て、火笊を以て一生懸命に火を消し始め、鎮火するとまた何処かへ見えなくなつた。その働きがあまりに目醒ましかつたので、後で、あれは何処の子供であらうと評判が立つた。ところが下横町の青柳某といふ湯屋の板の間に小さな泥の足跡が、ぽつりぽつりと著いて居た。その跡を辿つて行くと、家の仏壇の前で止つて居り、中には小さな阿弥陀様の像が頭から足の先まで泥まみれになり、大汗をかいて居られたと言ふことである。

                                                     「遠野物語拾遺62」


是は維新の少し前の話だといふ。町の華厳院に火事が起って半焼したことがあった。始めのうちはいかに消防に力を尽してもなかなか火は消えず、今に御堂も焼落ちるかと思う時、城から見ていると二人の童子が樹の枝を伝って寺の屋根に昇り、しきりに火を消しているうちにおいおい鎮火した。後にその話を聞いて住職が本堂に行って見ると、二つの仏像が黒く焦げていたということである。その像は一体は不動で一体は大日如来、いずれも名ある仏師の作で、御長は二寸ばかりの小さな像であるという。

                                                     「遠野物語拾遺63」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
上記の「遠野物語拾遺」に登場する子供は、その流れから神仏に関係するものと考えられて紹介されている。しかし"その家"を護るという意味においては、座敷ワラシも神仏が子供の姿を借りて現れる場合も、あまり変わらないものと思える。以前、当宿で座敷ワラシ騒動が起きた時、遠野の九重沢に有名な祈祷師がいるのを知っていて、試しにお伺いしに行った事がある。その時は自分も含め、1年のうちに子供の姿を目撃した人達が数人いた。その話を九重沢の祈祷師に話したところ「それは子供ではなく、観音様でしょう。観音様が現世に姿を現す場合、しばしば子供の姿を借りる場合が多いですから。」と言われた。祈祷師の話の詳細によれば、「家運が低迷し、あなたに災いが降りかかろうとしているので、それを最低限にとどめる為、観音様が子供の姿になった現れたのです。」と。「遠野物語拾遺」の話と同じに、その家を護る為に神仏が子供の姿を借りて現れたとするのは、それが神仏界の常識として語られて来たのだと思える。つまり神仏界に仕える人達は、それが一般的な"座敷ワラシ"だとしても、恐らく観音様・仏様の霊験であろうとするだろう。例えば不動明王の場合、脇侍として左右に制多迦童子と矜羯羅童子が置かれる場合が多い。この童子二体は、簡単に言えば不動明王を補佐する童子でもあり、不動明王の命を受けて行動する存在でもある。「遠野物語拾遺63」に登場する二人の童子は、華厳院に不動明王が祀られている事から、制多迦童子と矜羯羅童子と考えられるようである。つまり、その家の危機の時に不動明王の命を受けて火消しをしたのだろうと。

ここで思うのは、早池峯神社で販売される座敷ワラシ人形である。この子供の姿をした人形に入れる魂は、何故か早池峯大神の魂であるという事。昔、早池峯神社に座敷ワラシ人形の話を持って来たのは、どこぞの新興宗教団体であったようだ。しかし、昔から早池峯神社の社務所に泊ると不思議な事が起きると言われていた。その不思議な事が、どうも座敷ワラシの仕業に近似していた為だろうか、それによって座敷ワラシと結び付き、座敷ワラシ人形の誕生のきっかけになったのかもしれない。だが早池峯神社においても、不動明王は祀られている。つまり座敷ワラシと思われているのは、もしかして不動明王の眷属である矜羯羅童子と制多迦童子であるとしても、何等不思議はない。

座敷ワラシの仕業の中に"枕返し"というものがある。しかし西洋人にそれを言わせれば"ポルターガイスト"、つまり霊の仕業であるとされるだろう。古代から地面の穴は、霊界と繋がる場所であると信じられてきた。だからこそ地面の穴である便槽と井戸には、幽霊の話が多い。トイレの花子さんを幽霊として語るならば、トイレを通じて霊界から出入りしている子供の霊という事になろうか。妖怪と認定されているトイレの花子さんが、妖怪なのか幽霊なのか、はたまた神仏の眷属童子なのかは断定し辛い。ただ言えるのは、遠野小学校の跡地には、子供の霊か出ると古くから噂されていたのだが、佐々木喜善がそれを座敷ワラシと考え、自分の著作にも紹介した。しかし、その後の昭和12年の一家心中事件から、遠野小学校のトイレに隠れている郁子ちゃんが半狂乱になった母親の見つかり引きずり出され殺された事件が重なり、現代に広まった都市伝説「トイレの花子さん」と結び付いてしまった。現代になり、その地にはアエリアという市営のホテルと市民センターが建っているが、市民センターが出来た頃でも、幽霊が出るという話は聞いた事がある。ただその幽霊が、子供の霊であったかどうかはわからない。

古くから云われるものに「七歳までは神の子」であるという認識があった。座敷ワラシが6,7歳の子供として認識されているのは、恐らくこの神の子と重なっている為であろう。柳田國男の認識によれば、神が零落した存在が妖怪であるという事に重ね合せれば、神仏の眷属である霊力を持った童子が零落し、妖怪化したものが座敷ワラシであり、トイレの花子さんとなろうか。しかし、その境界線は曖昧である為に、簡単に区別する事は出来ないだろう。

by dostoev | 2018-06-09 22:07 | 民俗学雑記
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