昭和の始め、まだ土葬であった頃の話である。小雪がちらつく冬に、山口部落の老婆が亡くなった。部落中の人達が葬儀の準備を手伝う中、ある女性があるお婆さんと墓地傍にある祭壇を飾る小屋掃除を担当していた。すると、黒い小さな蝶が飛び出したので、一緒にいたお婆さんに教えたところ
「ホレホレ、今、死んだ婆さんが成仏するところだ。そっと奥に送ってやれ。」と言われたそうな。しかし、その次には白い蝶が飛び出してきたそうな。それもまたお婆さんに教えると、お婆さんは驚いて
「これは大変だ。何事も起きなければいいが…。」
昔から、白い蝶を珍しい場所や、珍しい時期に見ると不幸が起きると云われていたそうである。その蝶の出来事のあった五日後に、同じ部落の青年が自殺したという。まさにその時の蝶は、不幸の予兆であったようだ。