
鯰が水神の使役という事が分かり、本来の水神は竜蛇神であった。玄武は亀であり、本来は災害を招く龍蛇を抑える存在であり、古代中国などで大地を支える堅牢な亀の伝説が、そのまま堅牢な石に重ねられた節がある。つまり
"要石"とは本来、
"玄武"であった可能性がある。その玄武は北の守護獣である事から、不動の北極星、所謂"北辰"であり、妙見信仰と結び付いたようだ。陰陽五行である風水思想によれば、
「龍神は天空から地上を窺う時、足がかりとなる北に聳える山を見つけて舞い降りる。」とされている。それが京都盆地では、北斗が降ったとされる比叡山となる。これを遠野盆地に置き換えれば、龍の降り立った山とは早池峯山となる。
陰陽五行では、北は黒色で示す。北を守護する玄武の玄は
「玄(くろ)」である事から、やはり北となる。
「遠野物語拾遺46」でのハヤリ神が当初、黒蛇大明神としていたのが後に早池峯山大神となったのも、北に位置する竜蛇神は黒色で示すからだ。つまり、遠野の早池峯大神も竜蛇神であり、妙見神でもある。
妙見神は亀に乗って来たと云われるが、日本の神々が大きく影響を受けたインドの神にも、亀に乗る女神が存在している。ヤムナー川の女神は、亀に乗る水神でもある。この水神の女神は、インド神話における太陽神スーリヤとサンジュナーの子で、死者の国の王ヤマの妹であるヤミーとされている。インドの死者の国は、日本での黄泉国に対応するのだろう。日本では、厠や井戸、そして枝垂れ桜、枝垂れ柳、更には桜谷(佐久奈谷)が黄泉国と繋がっていると信じられていた。地下から涌き出る水を考えると、水神が黄泉の国と繋がっていてもおかしくはないだろう。
そして、要石のある鹿島神宮の御神体は、海に沈む大甕であり、本来の祭神も本殿に祀られる武甕槌ではなく花房社に祀られる蛇神であった。甕(カメ)は亀(カメ)であり、カメによって竜蛇神を抑えるとは、そのまま要石でもある。つまり海中に沈む大甕には、本来の神である竜蛇神が封印されているのだろう。その竜蛇神は二荒山と結び付き、小山氏を通じて竜蛇神が近江国と繋がっていた。そして、原初であろう阿蘇の鯰伝説は、恐らく佐々木氏を通じて、琵琶湖と繋がったのは南北朝時代であろうか。その佐々木氏は、阿蘇地域に於いて菊池氏の家臣となっている。

岩手県に、阿蘇から分霊された菊池神社の祭神は、水神姫大神であった。これは菊池郡を調べれば、水神であり、姫大神、もしくは乙姫と親しまれていたのは、日下部吉見神社から阿蘇へと嫁いだ阿蘇津比咩であり、別名瀬織津比咩であった。そして、佐々木氏が阿蘇地域の菊池郡に勧請した唐崎神社には、瀬織津比咩が祀られている。また日吉神社に到っては、
「日吉社神道秘密記」によれば、竹生島は比叡山の奥ノ院であり、薬師を祀るとするが、薬師は妙見の本地である事から、北斗の降った比叡山の奥ノ院が竹生島であるならば、そこに妙見神が祀られている事になる。しかし仏教に帰依しつつあった聖武天皇は、天照大神の夢告を受けて、竹生島を弁才天女の聖地とした。しかし日吉神社本来の祭神は滝神であり、それが弁才天と結び付くかといえば否である。だが、阿蘇地域では乙姫であり天女と呼ばれるのは阿蘇津比咩である事から、阿蘇地域と琵琶湖周辺の信仰が何故か重なっている事が理解できる。
古田武彦「まぼろしの祝詞誕生」によれば、
「大祓祝詞」に描写される場所である地名は玄界灘を中心としたものであろうとしている。それらの地名がいつしか、琵琶湖周辺に移転されたのは、氏族の流れと信仰の流れからくるものであろうとしている。南北朝時代に、佐々木氏が阿蘇地域に水神を祀る神社を勧請してはいるが、その遥以前に九州から琵琶湖周辺に信仰が伝わって来ていたという事になろうか。それは阿蘇の水神と、八代の妙見女神と共に、水神の使役である鯰をも伴って。
地震を引き起こす鯰であったのは、実は竜蛇神であった。その竜蛇神は、蒙古襲来時に飛び出して日本と云う国土を守護したとも信じられている。しかし、日本と云う国土に災いをもたらすのも、また龍蛇である。地震だけでなく
「肥後国誌」には、阿蘇の噴煙から龍が現れたという記述がある。水害・地震・火山の噴火にね龍蛇が関係していると考えられていた。その龍蛇は、日本の国土の地下に潜んでいる。だからこそ、それを抑える要石であり、玄武が必要とされてきた。しかし、どうやら、それと共に龍蛇の女神も歴史の闇の中に抑え込んでしまったようである。
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