綽名の類もまた甚だ多い。法螺を言うから某々法螺、片目であるから某々メッコ、跋だから某々ビッコ、テンボであるから某々テンボんどと言う例は、この郷ではどこへ行っても普通である。新助爺という老人はヤラ節が巧みであった為に、新助ヤラとばかりいって他の名を呼ばなかった。いたって目が細い女をお菊イタコ、丈が人並み外れて低かったのでチンツク三平、その反対に背高であったから勘右エ門長、また痩せっぽちの男を鉦打鳥に見立てて鉦打長太などという例もあった。盗みをしたためにカギ五郎助、物言いがいつも泣き声なのでケエッコシ三五助、吃りであるからジッタ三次郎、赭ら顔が細いのでナンバンおこまなどと言った例の他に、体の特徴をとって、豆こ藤吉、ケエッペ福治、梟留、大蛇留などともいった。歩き様を綽名にしたものには、蟹熊、ビッタ手桶、カジカ太郎、狐おかん、お不動かつなどがあり、おかしかったのは腕を振って歩く小学校の先生を腕持ち先生、顔の小さな小柄の女先生を瓜子姫子などといった例のあったことである。
「遠野物語拾遺251」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「注釈遠野物語拾遺」に、この綽名の名称を紹介しているので、そのまま掲載しよう。
【メッコ】片目、あるいは全盲の人。
【ビッコ】片足が悪い、あるいは無い。
【テンボ】手に障害のある人。
【やら節】遠野に伝わる、「七之助節」の事。現在は祝い唄で、元々は土搗き唄。
【目の細い】イタコは盲人で目を閉じていて、目の細い人はイタコの様だと。
【鉦打鳥】クイナという水鳥で、クイナはカンカンと鳴く。
【カギ】カギは盗人の事。
【ケエツコシ】子供の様な泣き声の事。
【ジツタ】どもりの事か?
【ナンバン】顔が唐辛子に似ている。
【ケエツペ】ヘルニア、脱腸を意味するが、尻の出た人の意か?
【梟】扁平な顔の意か?
【大蛇】ひょろ長い体形を指すか?
【蟹熊】がに股で歩く人。
【ビツタ手桶】ビッタはカエル。カエルの様に歩く意か?
【カジカ】ちょこまか動く意か?
【狐】野生の狐を思わせる歩き方?
【お不動】動作が鈍い意か?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「注釈遠野物語拾遺」では、ある程度理解しているようだが、よくは分からないものもあるようだ。それは、雰囲気で付けた綽名もある事から、実際にその人物なりを見ないとわからないものも多いだろう。綽名とは、その時代に流行ったものも含めて自在に付けられるものであるから、その時代の綽名を理解出来なくて当然であろう。ただ、現代となれば、やれ「人権ガァー!」「やれ虐めガァー!」と騒ぐ団体も増えているので、この「遠野物語拾遺251」での綽名の一覧の殆どは、今では使用される事は無いだろう。好意を持って名付ける綽名と、悪意を持って名付ける綽名は、この時代に住んでみなければわからない事であろう。
自分の小さい頃、唖の人の事をヤンコと呼び、酒を置いていた自分の店に、よくヤンコさんがの見に来ていた。「あらヤンコさん、いらっしゃい」という母親の挨拶に、嬉しそうに笑いながら酒を求めて飲んでいたヤンコさんの姿が今でも思い浮かぶ。ヤンコとは差別用語でもあり、侮蔑用語にもなるのだろうが、当の本人はまったく気にする様子も無かった。ある時、そのヤンコさんが死んだと聞いた。すると、遠野中のヤンコさんたちが集まって弔ったという。何でも「ヤンコ同盟」なるものがあったとか無かったとか聞いたが、子供心に、その「ヤンコ同盟」という響きがおかしくて笑った覚えがある。侮蔑の綽名であっても、長年親しまれて呼ばれ続ければ、それは綽名というより、愛すべき称号である「愛称」に変化するのだろうか。しかしそれも、付けられた綽名によるのだろう。
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