遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十二

鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十二_f0075075_11473250.jpg

また少し二荒山から太平山に戻るが、近江雅和「消された星信仰」には、気になる記述があった。

関東平野を一望できる太平山である。平野を中にして東の筑波山と対峙している古来からの霊山であった。天長十年(833年)に慈覚大師円仁が開山して山上に太平権現を祀り、神体山男体山の前山としたといわれる。

筑波山が登場したが、筑波山は加波山と連なる連山でもある。男体山と女峰山との連山の間にあるのが太平山であり、男体山→太平山→筑波山は、ほぼ一直線になる。つまりどちらにも対応するのが太平山であり、ある意味どちらの遥拝所としての機能もあり、またどちらの山の影響を受けているとも考えられる。
鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十二_f0075075_1203680.jpg

近江雅和「消えた星信仰」には、その太平山の図が掲載されており、御影山と並ぶ連山でもあるのが太平山なのであろうか。その二つの山の間に三輪神社があるという事は、物部系の影響を受けていると共に、やはり祀られる神とは蛇神であろうと想定できる。太平山三光神社の本地仏は虚空蔵菩薩であり、その本地仏を納めているのが太平山星宮神社である事から、古代信仰形態はやはり星の神である香香背男になるのではなかろうか。

連山となる山の形はM形となり、左右と真ん中で、三つの谷を有する事になる。筑波山の連山も含め、三谷を二渡れば、二荒山へと行き着く。夷振歌は、舞台も全く違う連動性の無い歌が、二つ連なって紹介されているのは、逆に言えば、二つの歌を合わせて意味を持たせているのだとも思える。その舞台は、この関東に置いてのみ意味の成す歌となったのだと考えるが、これの言及は後にする事としよう。
鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十二_f0075075_12202451.jpg

ところで、二荒山を調べるにあたって、気になる氏族は阿曽沼氏である。奥州藤原氏を滅ぼした源頼朝の命を受け、遠野に移り住み支配したのが阿曽沼氏であった。本来は佐野氏であったが、安蘇郡に住んでいた事から阿曽沼と名乗ったという。しかし、そのまま安蘇氏と名乗っても良い筈なのが、何故か安蘇に沼を加えて、阿曽沼と名乗ったのはどういう事であろう。これも多分に、安蘇郡の影響を受けていると思われるが、定かでは無い。

二荒山と赤城山の戦いを調べると、その原因は沼の争奪戦であったと云われる。また各風土記に登場する荒ぶる女神の話は、山での水の争奪戦の後、女神が男神をどこかに追いやる事で帰結している。かたや沼の奪い合いであり、かたや水の奪い合いであり、どちらも水である事には変わりない。その安蘇郡の習俗を調べると、雨乞いの時には中禅寺湖の水を汲みに行くというものであった。これは以前、星神島に祀られる香香背男の大事にしている泉から水を汲むと、その汲んだ分だけ雨を降らせるという雨乞い法と同じ意味であろう。実は、古代では中禅寺湖は安蘇郡に属していた。

五来重が二荒信仰を、元々あった中禅寺湖の水神信仰が当地の千手観音の信仰になっていたので、二荒山信仰は山岳信仰であると共に、湖水信仰であると述べている。となれば、二荒山と赤城山が争奪した沼とは、中禅寺湖であったのだろうか。ただ、勝道上人上人が、二荒山の山頂を征服した後に中禅寺湖畔に神宮寺を建立し4年過ごしたのは、そこに居付く民族の教化にあたっていたのも、その民族にとっても中禅寺湖は重要だったという事であろう。中世になって成立した「補陀落山建立修行日記」には、延暦三年(784年)歌浜に白蛇が現れたとある。「補陀落山建立修行日記」は都合よく書かれた胡散臭い書であると云われるが、ある意味真実をついているのかもしれない。何故なら、星上島での香香背男とは蛇神であり、それが磯良と結び付くものならば、その正体は白蛇である。その白蛇は九州において、瀬織津比咩であると云われる事から、北に聳える早池峯の麓である遠野に移り住んだ阿曽沼氏は、初めから瀬織津比咩という神を祀る地である事を知っていたのではなかろうか?阿蘇の沼とは白龍の棲家であり、その安蘇という地名もまた、九州の阿蘇との関わりがある事から、安蘇の水神を祀る中禅寺湖に仕える意での阿曽沼という改姓ではなかったろうか。
鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十二_f0075075_13172275.jpg

また、勝道上人が二荒山で雨乞いをしたとの記述があるが、それは日光修験にあった雨乞い法であると思われるが、その雨乞い法に深く関わっているのは東密である真言宗、または空海であろう。時代的には勝道上人の後に台頭した空海であるが、その勝道上人の業績を「沙門勝道、歴山水、瑩玄珠之碑」によって讃えている。その中の文字から、明星天子や竜王が活躍したような記述がある。

画像は、神泉苑での空海の雨乞い法だが、池から龍神が現れている。見た目は大蛇であるが、この時代に龍と蛇の違いは無かったのである。藪元晶「雨乞儀礼の成立と展開」によれば、神泉苑においての空海は呪力をもって龍を水瓶の中に加持し籠らせたという。注目したいのは、水瓶である。これはつまり甕であり、鹿島神宮の御神体であり、海に沈んでいるものであり、それは二荒山から出現するものでもある。その甕には龍が入っていると繋がる、空海の雨乞い法である。しかし、誰しも空海の様に呪力があるわけでもない。その後の神泉苑での雨乞い法とは、池の水を抜いて鐘太鼓を叩くものに変化している。これも池の水を抜くというのは、その抜かれた分だけの池の水を補充しようと龍神が雨を降らせるものに対応する。種太鼓を叩くのは、その龍神を呼ぶ為であり、池の水が無くなった事を知らせる方法である。これもつまり、星神島での雨乞い方法と同じという事である。

また水瓶であり甕だが、本来は水を入れるから水瓶でもあるのだが、その水気とは龍でもある。つまり甕とは、元々龍神を納めるための器であるのだと思う。よって鹿島神宮の御神体の大甕であれ、大甕倭文神社の祭神も龍神でなくてはならない筈。また二荒山そのものが大蛇という伝承から察すれば、その棲家は中禅寺湖でしかないのだろう。
by dostoev | 2014-07-12 13:45 | 鉄の蛇
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