遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十一

鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十一_f0075075_9482844.jpg

太平山を調べると、二荒山の影響を多分に受けているのがわかる。それは太平山の古神祠扉に、別当日光西本坊権少僧都 昌宣の名が記されいる。この昌宣という人物は、日光修験の整備に力を入れた人である。更に男体山山頂遺跡には「太平山 連祥院 奉納男体山 承応二 」との銘が刻まれているものが出土している。この事からも、日光と太平山の深い繋がりが伺える。

そして、もう一つの共通する事がある。太平山はわずか300m程度の山である。その太平山に慈覚大師円仁は、入山する事が出来なかったという伝承が伝わる。少し違うが、勝道上人もまた一日か二日あれば登れる筈の二荒山に、長い年月をかけて登っているのは、既に山にいる勢力との交渉に時間を費やした為だと云われている。勝道上人と円仁との時間差は、大同年間を前後する程度だ。その頃は、桓武天皇の蝦夷支配が強化されている時代であり、それに反発する蝦夷が多かった時代だ。蝦夷は、山でその力を発揮したと云われるが、考えてみれば普段山に登らない人間が、頻繁に山に登っている人間と比較した場合、慣れも含めて、その体力には格段の差がある。平地を歩く体力と、山の急な坂道を歩く体力や脚力は、比べようが無いだろう。恐らく、太平山や日光二荒山に根付いていた勢力とは、蝦夷であったろうと想像できる。

ところで、前回記した太平山三光信仰において「太平山権現→天孫太神 (星)」であるとしている。これは太平山が星の信仰を重視しているものではあるが、天孫太神が天照大神であるならば、それは日になる筈であるが、それが星であるのはどういう事であろう。星堕ちて石となり、それは金の散気である事を踏まえて導き出される神とは、アラハバキ姫とも云われた、天照大神荒御魂でもある荒祭宮の神になるのではなかろうか。アラハバキ神に関しては、以前に氷上神社の祭神がそうであったように、また荒脛神社の教義からも、星と石と金の信仰を見出せる事から、この太平山に祀られていた神とは蝦夷が奉斎するアラハバキ神であったろうと想定できる。
鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十一_f0075075_10381553.jpg

「懸社太平山神社御由緒調査書」によれば「下二十一社ハ往古ヨリ神秘トシテ社号神名ヲシハス総称シテ単ニ星宮ト称セシヲ後ニ氏子村々ノ鎮守ニ移セン」という記述から、太平山を中心に氏子の村々に星宮神社が勧請されていった事がわかる。その星の澪神社の普及を調べると、二荒山の隆盛と連動していた。例えば江戸時代になっても多くの星の宮神社が普及しているが、それまで衰退した二荒山信仰であるのが、徳川幕府が天海僧正を起用してから二荒山信仰が再び日の目を見る様になると共に、星の宮神社も増えていった。つまり太平山を中心とする星の宮神社の普及は、二荒山信仰の隆盛無しでは有り得なかったと思えるのだ。逆に言ってしまえば、二荒山信仰と太平山信仰とは密接な繋がりを持ち、祭神もまた共通するものであると考える。それは恐らく、二荒山も太平山も蝦夷の信仰していた神を崇めていたが、蝦夷征伐の後に、天台宗の僧である慈覚大師円仁の介入によって、その祭神の編纂が行われたのだと考える。それでは、二荒山信仰を考えてみよう。
鉄の蛇(日高見とアラハバキ)其の二十一_f0075075_11283749.jpg

二荒山で有名なのは、赤城山の大百足と二荒山の大蛇との争いである。遠野にも似た様な伝承が伝わっており、伝説の狩人である旗屋の縫が神に頼まれて、五葉山の大蛇を退治する話となっている。二荒山での話は、小野猿丸が二荒の神(大蛇)に頼まれて、赤木の大百足を退治するのだった。しかし「日光神戦譚」によれば、小野猿丸の代わりに登場しているのは、唵佐羅麽女であり、その力によって二荒山の神が勝利している。その唵佐羅麽女とは、赤城の沼の竜神であるという。どうも、小野氏の進出により、本来は唵佐羅麽女であったものが、小野猿丸に書き換えられたという事らしい。その小野氏であるが、関東に二つの小野氏に関わる小野神社が二つあり、その一つの小野神社に瀬織津比咩を祀り、もう一つの小野神社に荒覇吐神を祀るというのは示唆的である。

それとは別に日光には「朝日長者物語」があり、その主人公の有宇中将が都落ちをし東北の朝日長者の娘を娶り、やがて離れ離れになって非業の死を遂げるが、その後に一波乱があって最後は、その夫婦が日光の神となったというものである。ところで遠野には朝日巫女の伝説があり、朝日長者の娘が行方不明になり、長い年月を経て再び戻って、遠野に起きた洪水を修行してきた巫女の法によって村を助ける話がある。その巫女は一説には、二荒山で修行したとも云われる。それが日光に伝わる「朝日長者物語」と結び付くものであるならば、神懸かった遠野の娘が二荒山の神となったという話になってしまう。それは暗に、蝦夷の信仰していた女神を二荒山に祀ったともとれるのだ。

東北のマタギは殆ど日光権現に許可を得た日光派に属するマタギで、高野派というのは皆無である。それ故に、旗屋の縫の大蛇退治の話も伝わっているのが理解できる。ただ、朝日巫女の伝説は、実体があるようで、なかなか掴み切れないのが実情だ。水を自在に操る巫女であったようで、川の流れをも変えてしまった程の力を持っていた事から龍神の生まれ変わりとも云われている。遠野において、その朝日巫女は朝日神として石碑に名を刻まれ、また別にある山に墓石が建てられて供養されている。現実と幻想が交差しているのが朝日巫女という存在でもある。とにかく唵佐羅麽女であり、東北の娘などが二荒山に味方した事によって、二荒山が勝利したという方程式は崩れない。ただ、そのどちらも本体は、龍神に関係する女であったようだ。いや、女神といって良いのであろう。
by dostoev | 2014-07-08 11:43 | 鉄の蛇
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