
栃木県と茨城県に跨って多くの星の宮神社が点在しいるのは、やはり星に対する信仰があったのだとも理解できる。しかし、調べてみると、その星の宮神社の多くは、磐裂神、根裂神を祀り、星の信仰よりも農耕に関する信仰が多いのだという。
高藤晴俊「日光山鉢石星宮考」によれば、江戸時代初期には磐裂神、根裂神を祀ってはおらずに、殆どが虚空蔵菩薩が祀られていたらしい。虚空蔵は「こくぞう」と読まれ「穀蔵」と漢字をあてられたことから、農業神にもなっている。後に、磐裂神、根裂神に変わっても、磐裂・根裂という意味は、土地の開拓にも通じる事から農民に広く信仰されたそうだ。それでは、星の宮神社は石も星も関係ないのかと調べると、古くから祀られている星の宮神社には虚空蔵菩薩と妙見信仰が一体化している事例が多いという。虚空蔵菩薩は仏教の普及によるものであうが、どうもそれ以前は妙見を祀っていた節がある。
その星の宮神社の中で気になるのは、太平山神社だ。その太平山神社は別に太平山三光神社とも云われ、その境内社に星宮があり、香香背男が祀られている。太平山神社の開祖は慈覚大師円仁であるらしいが
「太平山傳記」によれば、淳和天皇の御宇に九月二十二日に太平山に登った円仁の前に北斗七星の神が顕れ、その神が隠れた後に、その本地仏である虚空蔵菩薩を拝したという。元々太平山は円仁の介入の前に、信仰されていた霊山であったようだ。これによれば、妙見神は虚空蔵菩薩と一体という事になる。
ところが
「太平大権現略記」によれば、垂仁天皇の御宇に天一目大神を祀っていたとある。これはつまり、太平山神社自体が、円仁の前に創建されていたのか、それとも社殿が無く、天一目大神が山に祀られていたのか定かでは無くなる。ただ言えるのは、恐らく栃木県や茨城県に広がる星の宮神社の祭神は、虚空菩薩以前は妙見神であり、天一目大神の可能性があったようだ。天一目大神は、製鉄・鍛冶の神でもある。実際に、太平山の奥宮には剣宮があって天目一神を祀っている。更に付け加えれば、
祓戸四柱之大神を祀っていた。

この茨城県と栃木県にまたがる太平山という山の名称だが、遠野にはかって天台宗の積善寺があり、その向かいの山を太平山と呼んだ。現在、遠野の伊勢両宮は本来土淵町に鎮座していたものを、源頼朝の奥州征伐の後に栃木県から来た阿曽沼氏の時代に建立された積善寺の向かいの太平山にその伊勢両宮を移転した。
栃木県の太平山神社の言い伝えに鰻を食べないというのがあるが、その鰻は蛇とも混同され、水神の使いであるという。その鰻は、太平山に伊勢の神を導いたとされている。遠野での積善寺の構造は、積善寺そのものには不動明王を祀り、その奥宮を見ると六角牛山と、水神・不動と刻まれた石塔が建っている。つまりこれは、この積善寺の奥宮に、不動明王と共に六角牛山の水神を祀ったという事だろう。その向かいの太平山には伊勢両宮が祀られている事から、積善寺と太平山の伊勢の神を結ぶものは水神の使いという構造を、阿曽沼氏が遠野に持ち込んだものと思える。
そしてもう一つ、秋田県に聳える霊山にも太平山がある。そこに鎮座する神社は太平山三吉神社という。
菅江真澄「月の出羽道」には、こう記されている
「比咩賀美箇嵩。此御嶽は瀬織津比咩を祀ると云ひ、また𣑥幡千々比咩を齋と云ひ…。」この比咩賀美箇嵩が、現在の太平山である。これは恐らく、関ヶ原の戦いの後に西軍に味方した物部系氏族である佐竹氏が秋田県に移り住んでから、その太平山信仰を持ち込み、比咩賀美箇嵩を太平山と改名したのであろう。それは比咩賀美箇嵩に祀られている神が、太平山に祀られている神と同じであった為の可能性は強いだろう。その栃木県の太平山三光神社は「太平山傳記」によれば、下記のような祭神となっている。
太平山権現→天孫太神 (星)
熊野大権現→伊弉諾 (日)
日光大権現→大己貴命 (月)
天孫太神は、天照大神の事なのか。また熊野権現とは本来、那智神の事であるのを付け加えよう。そして、日光大権現が大己貴命となっているが、これは二荒山の時にでも言及する事とする。

栃木県の太平山三光神社と、秋田県の太平山三吉神社の名前は殆ど似ている。祭神も三柱の神となっており、それは大己貴大神、少彦名大神、三吉霊神になっている。ただ、三吉霊神とは実在した人物を後に神として崇めた事から祀られているが、これでは元々祀られていた筈の瀬織津比咩の名前が見えない。しかし、秋田太平山山中には御滝神社が鎮座しており、そこに祓戸神として祀られていた。これが秋田太平山における唯一の、瀬織津比咩の残存である。栃木の太平山神社がどうも慈覚大師円仁の介入によって変わったように、それを継承した佐竹氏が、同じくして秋田の太平山に持ち込んだものと思える。となれば恐らく、秋田の太平山の本来も、太平山三光神社ではなかったのか?星の宮神社の全てが水辺に建立されているのも、星信仰と水神信仰が結びついての五穀豊穣祈願になっているのは、虚空蔵菩薩や石析神、根析神が祀られている事からも理解できる。虚空蔵菩薩は金星を守護とするもので、それは太白神でもあり天白神でもあって、香香背男や瀬織津比咩と結び付くからだ。
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