佐々木君の友人の一人が遠野の中学校の生徒の時、春の日の午後に町へ出て牛肉を買い、竹の皮包みを下げて鍋倉山の麓、中学校の裏手の細道に来かかると、路傍に可愛い一疋の小兎がぴょんぴょんと跳ねていた。不思議に思って立止まって見ると、しきりに自分の下げている包みへ手を伸ばすので、まずその包みをしかと懐へ入れてから兎を見ていた。すると兎はやがて後足で立上がり、またいつの間にか小娘のする赤い前垂をしめ、白い手拭をかぶって踊を踊っている。それがあたりの樹の枝の上に乗っているように見えたり、またそうかと思うとすぐ眼の前にいる様に見えたりしたそうある。そうしてしまいには猫のようになって、だんだんと遠くに行って姿が消えてしまった。これも狐であったろうと言っている。
「遠野物語拾遺197」
狸もそうだが、兎の話も「遠野物語」&「遠野物語拾遺」にはまずない。ここでの話も、恐らく狐だろうとなっている。確かに牛肉の入った包みに興味を示す兎は居る筈が無いという前提での話だ。まあ実際に兎は草食動物で、まれに虫などを食べるものもいるというが、動物の肉を食べる事は無い。そしてもう一つ気になるのは、兎が人を騙す、化かす筈が無いという前提に立っての物語という事。日本での兎の話はいろいろあるものの、実は「因幡の白兎」の話に見られるように、かなり狡猾な兎の話が多い。「カチカチ山」の話でも、お婆さんが殺された復讐に兎が一役買って狸を騙しているのも、実はそこに兎は狡猾であるという意味が込められている。「カチカチ山」の別の話では、兎の気まぐれから人の良い熊を騙して殺し、その熊を食べてしまう話もあるくらいに、兎とは実は狡猾で残忍な動物であるという話もまたある。

ところで「カチカチ山」の話には、いろいろな地域性があり、若干の違いが見受けられる。その中で共通するのは、兎に騙された狸が
「この前酷い事してくれたな!」という怒りに対する返答が
「それはカヤ山の兎だへ。俺は樺皮山の兎だ。」と誤魔化す箇所がある。これは、いかに兎が多産で、あらゆるところに生息しているという意味である。兎という生き物は妊娠していながら更に生殖を繰り返して二重妊娠できる生き物でもある。その為に繁殖率が、かなり高くどこにでも兎はいるのだが、その代り猛禽類やら狐などの捕食の対象となっている。ある意味、兎がいるからこそ、猛禽類や狐などが生き延びているという事。ただ以前、猛禽類調査で兎の生息数を調べたところ、かなり数が減っているようだ。猛禽類もそうだが、餌だけでなく環境も揃わないと、その生息数は激減してしまう。

ある古老が
「兎にはな、白兎と大山兎がいる。」と言っていたのを思い出した。またある古老は
「兎は、白兎と山兎と黒兎がいる。」とも。つまり、毛替わりした兎を違う兎と混同して覚えていたという事がわかる。そういう意味でも、兎とは人をも騙す生き物なのであろう。
イソップ童話で有名な
「ウサギとカメ」の話があるが、実はノロマなカメに負けたウサギの後日譚が、何故か新潟県の葛巻村にだけ伝わっている。その話は、ノロマなカメに負けた兎は兎族の恥晒しだと村八分に遭うが、その兎の村に狼が満月の夜までに小兎を3匹差し出せと要求した。狼には束になっても叶わない兎達であったが、村八分に遭っていた兎が勇気を振り絞り、その知略で狼を崖から突き落として殺し、兎村を助けて、村八分を解いて貰った話であった。ここでも兎はその狡猾さから狼をも退治するのだが、その兎の愛くるしい表情から、その兎の狡猾さを感じる現代人はいない。恐らくその狡猾さの原点は「因幡の白兎」からであり、それが脈々と昔話を通して伝わってはいるものの、やはり現実的には兎が人を騙すというのは多くの人にとってピンとはこない筈。だから「遠野物語拾遺197」でも、狐の仕業だろうと簡単に思ってしまったのだろう。
ちなみに
「牛肉を買い」とあるが、自分でさえ牛肉をどうにか食べる様になったのは昭和50年代であり、昭和40年代以前で牛肉を買うというのは、大抵は有り得ない。また佐々木喜善の年代で学校に通うというのは、村長だった佐々木喜善の家も含め、かなり家が裕福であった証である。
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