


その昔、一人の坊さんが大迫街道を東の海岸へと向かって行脚し、綾織の
大久保まで来て、路傍の石に腰掛けて休んでいると、下の家から鉦音が聞
こえてきた。
こんな里で鉦の音がするとは何と不思議な事だと、そり鉦の音を聞きながら
細道を下の家の門口まで来ると、いままでガンガンと鳴っていた鉦の音がピ
タリと止んだ。
お坊さんは玄関先で中へ声をかけたが返事が無いので、辺りを見渡すと前
の畑で一人のお婆さんが働いているのが見えた。そのお婆さんは、その家
の人であった。
そこで、そのお婆さんに尋ねた。
「先程まで家の中から鉦の音が聞こえたが、私が門口まで来るとピタリと止
んだが、何とも不思議でならないが、あなたの家に何かありませんか?」
すると、お婆さんが答えるには…。
「ハイハイ私の家には先祖から伝わっている仏様があります。」
お坊さんは、ああそうですかとうなずき、ではその仏様を拝ませては下さら
んかと、案内された座敷の床の間には一体の仏像が安置されていた。
仏像の前に座ったお坊さんがよくよく見ると、そのお顔が慈悲に満ち溢れ、
何とも言えない尊いお姿の阿弥陀像であったので、ねんごろに供養して、
お婆さんに尋ねた。
するとお婆さんは…。
「ハイ、この仏様は私の先祖が前の畑を耕していると鍬の先にカチッと当
たったので、掘り起こしてみるとこの仏様が出てきたのです。これは只事
ではない尊い仏様だと言うので、それからこの様に床の間に安置して、
毎日拝んでおります。」
この仏像の由来を尋ねると、昔この地に光明寺という寺があったと伝え
聞いていたという。
お坊さんは、ここでこの仏像と巡り会ったのも、わたしがこの地に留まっ
て仏法を世に広めるようにとの有難い仏縁であり、一大事因縁にほかな
らないと深く感得されたという。
それからお坊さんは、この仏像を請い受け、大久保の地に草庵を建立し
たのだという。
そしてこの仏像は現在、綾織町二日町にある光明寺に脇本尊として祀っ
ている阿弥陀如来像で、昭和34年に遠野市の文化財に指定されている。