今は昔、ある日の秋の事達曽部の白石湧水部落の神楽の一行が附馬牛のお祭りで踊りまくった帰り道の事、馬越峠を越えて村内に入ってまもなく、一人の若衆の持っていた権現が急に唸りだしたと思ったら、傷められたような声を出したという。また、若衆の持っていた権現の着物がズタズタに引き裂かれたのだと。翌年もまた同じような事があったのは、恐らく峠の権現石の仕業であろうと、それからは権現石の前を通る時は、必ず拝んでから通ったとの事。そして、権現石には他の権現を見せない様、風呂敷を被せて通ったという事らしい。また、この権現石の前で、権現様の真似をするなとも伝えられている。
この権現石、今では植林された杉の木が邪魔になって峠の旧道からは、よく見えなくなっている。自分が中学生の頃、稲荷穴へ行く為に自転車で大洞まで行き、途中から道らしきが無くなり、自転車を乗り捨て、歩いて獣道のような場所を通って稲荷穴へ行った事がある。今では新しく舗装道路が出来たわけだが、昔歩いた旧道は、今でもひっそりと存在している事がわかった。
ここを案内してくれた達曽部の翁に感謝したい。