【呼石の三女神伝説】
昔、八重畑村の呼石いうところに三人の女神が来て、日暮れになったので
泊る事にした。そして明朝最も早く目覚めた者が、秀麗な早池峰山に飛ん
でいき主神になろうと約束し合って眠りについた。
一番末の妹は、ずる賢くて機転がきいた。宵のうちから眠らずに、夜明け
に鶏が鳴くと、いち早く早池峰山に飛んで行ってしまった。次に目を覚ま
したのは二番目の姉だった。すでに妹はいないので、早池峰の次に高い花
巻湯本の麓山権現に飛んでその神となった。最も遅く目が覚めた上の姉は、
二人の妹達の姿が見えないので、大声を出して呼んだが、声は石に反響し
て、反ってくるばかりであった。
姉は早池峰山と麓山をあきらめ、近くの大森山と小森山を重ね合わせ、早
池峰より高くして住もうとしたが、重ね終わらないうちに夜が明けてきて
しまった。仕方なく低くて不満であったが、胡四王山を目指して飛んだと
ころ御鉢箱が重いので、途中の大きな枝に休もうと降りて行ったが、あま
りの重さに下の田に落としてしまった。今ではこの田を御鉢田といい肥料
を与えずに稲を育て、胡四王社に初穂を納めている。こなんつまづきの連
続だったが、姉は胡四王山の女神に納まった。この胡四王社だけは、他の
神社が南面しているのに対して北面している。それは、この山から北方に
ある早池峰山を見る為と、呼石の地が恋しく恨めしい為であったろうと云
われている。
呼石の地には「呼石大明神」が鎮座しており、祠の後ろにあるのが、上記の伝説に登場する女神の声を反響させた岩となる。つまり岩そのものか御神体であり、その岩が「呼石大明神」となる。
この呼石大明神の鎮座する地は小さな丘のような場所で、登ってみると四方が見渡せる。そして呼石大明神の祠はやはり、早池峰を向いているのがわかった。地図で確認すると、花巻の胡四王→呼石→早池峰は一直線上に並ぶ。
胡四王神社の脇に据え置かれている小さな石の祠は、三女神であるとする説もあるように、胡四王・呼石、そして麓山もすべて早池峰信仰のパーツとなるのだろう。
またこの呼石の地と対になっている、やはり小高い丘があるのだが、そこは三柱の神が祀られる神社があった。一つは天照大神、一つは駒形神、そしてもう一つは水白神とあった。地元の古老に水白神について尋ねると「ハヤチネ、ハヤチネ」と、ただ答えるだけだった。この水白は、例えば鳥取に伝わる白い水の伝承があり、もしかして天照と瀬織津姫に関わる水白の伝承か。もしくは全国に分布する白鬚神社に絡む伝承のような気がするが、ここでは紹介だけに留めておこう。