金沢村の佐々木松右衛門という家に、代々持ち伝えた月山の名剣がある。
俗につきやま月山といっている。この家の主人ある時仙台に行き、宿銭不足
した故にこの刀を代りに置いて戻ったところ、後からその刀が赤い蛇になって
還って来たと言い伝えている。
「遠野物語拾遺142」ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このように、剣が蛇となった、もしくは元に戻ってきた話は、全国津々浦々、どこにでもある話ではある。その話の根源はやはり、ヤマタノオロチから出た草薙剣であると思われる。
熱田神宮に祀られた草薙剣だが、668年に道行という新羅の層が熱田神宮に忍び込み、草薙剣を盗み袈裟に入れて伊勢まで逃亡したというのだが、その草薙剣は一夜のうちに袈裟から抜け出して熱田神宮に戻ったのだと云う。しかし道行は再び草薙剣を盗み出したが、新羅へ行く筈の船は突然の嵐に見舞われ港に戻ってしまったと。その頃、神託によって道行の仕業とわかり手配があちこちに出回っていた為、捕まると判断した道行は草薙剣を捨てようとしたが、今度はその草薙剣が体に張り付いて取れなくなったそうな。そこで道行は観念し、自首をして無事に草薙剣は再び熱田神宮に戻ったのだと。
まるで生き物のような草薙剣は、ヤマタノオロチから出た名剣であり、蛇の属性が宿っていたのだろう。あくまでも全国に広がる名剣の伝説はこの草薙剣が元になっているものと思っていいだろう。このような伝説が付随すれば、名剣としての価値が高まるからなのだろう。