昭和50年代の9月も終わろうとしていた頃、土淵の某さんは高室水光園で皆と別れ、歩いて山口部落まで歩いて帰る事にしたのだという。林の中を通り抜けている最中、左手に草地のある場所に来たところ、草地と林の境のところに、ねずみ色のダボダボのスーツを着、同じ色の帽子を被っている女性が屈んでいたのだという。その女性の持つ手篭には、季節外れの花が一杯入っていた。某さんはお盆の頃に咲き乱れるピンク色のブクブク花を手篭に入れているのを不思議がって、取り敢えず「こんにちわ」と声をかけたそうだが、何も返答は無かったのだと。某さんは家に帰ってから、どう考えても、今時あの花が咲いている筈が無いと不可思議に考えていたそうな。
また或る日、ある男の人が櫛に焼いたイワナを手土産に、やはり水光園から歩いて某さんと同じ道を辿って帰る林の道の中、前方を女性が歩いているので、追いついて声をかけようと思い、急いで近付くと、いつの間にかその女性は別の場所を歩いており、再び追いつこうと急いでも、その女性はまた違うところを歩いているという具合だったそうな。気がつくと、手土産のイワナの串焼きは無くなり、狐に騙されたのだろうという事になったらしい。某さんはその話を聞き、自分が出遭ったそのねずみ色のダボダボのスーツを着た女性が実は狐だったのか?と思ったという事である。