この妖怪は、夜の11時過ぎに現れる妖怪である。その登場の仕方というのは、静まり返った病院の廊下に突如…。
「ガチャ…。」
という、ドアを開ける音と共に…である。ここで断っておきたいのだが、この「ガチャ」という音は、まだ血気盛んな若者が、連続した歯切れの良いテンポで、「ガチャ!」とドアを開けるのでは無く、人に騙され、世間に騙された者がこの世を恨むといった調子で、一音ごとに怨念をこめながら「ガ・チ・ャ・ッ」という、重々しい響きなのである。そしてその「ガ・チ・ャ・ッ」という音の後に「ペタッ…ペ タッ…ペタッ…。」という素足で歩く音が響き、各部屋のドアが開かれるのだ。
そして嗄れた声で…。
「こ・こ・違う・か?」
と言いながら、各部屋を廻っているのだった。同室の”屁こきジジイ”は「来たぞ、来たぞ…。」と、期待?に胸ふくらませている様であった。すると「パタ、パタ、パタ、パタッ」と慌しく、廊下をスリッパで走ってくる者がいる。看護師であった。
「おじいさん、トイレはこっちよ!」
という困惑しながらも、強いメリハリのきいた看護婦の声が、静まり返った病院の中に響きわたる。同室の"屁こきジジイ"に聞いてみると、なんでも最近、間違って?他人の病室に入り込んでオシッコをしていったそうな。しかし、そういう失敗があったにも拘らず、未だにトイレの場所がわからずに、夜な夜なトイレを探して、深夜の病院を歩き廻るという、これまた、一匹の妖怪なのである(^^;