遠野には菊池という名字が多い。町を歩いている人達に向かって。「菊池さ~ん!」と叫ぶと、その大半が振り向くだろうとも言われている。そこで何故にここまで遠野地方に、菊池という姓が蔓延したのか考えてみようと思う…。
【青笹から広がる菊池の姓?】
ところで青笹の中下公民館の隣に熊野神社がある…。
その昔、九州で権現様同士が喧嘩をし、片方の権現様が耳を齧り取られたという。そこで「菊池しょうねんなりかね」さんという人物が、青笹の地まで、その権現様を連れて来て、それから今の熊野神社が祀られたそうな。その「しょうねんなりかね」の子孫が、だんだん増えてきて、だから青笹には菊池が多いのだと…。ちなみに「なりかね」の子孫の屋号を「くまん」と言うそうな…。
九州に、菊池郡というのがある。いわゆる菊池姓の発祥の地とも言われている。しかしその前に菊池は高橋の分家として存在したらしい。つまり菊池を調べる前に高橋も調べなければならない筈。何故なら高橋家と菊地家の家紋が、鷹の羽という共通性を示しているからだ。
元来高橋姓は名字としてではなく「日本書紀」などに登場する、かなり古い由緒ある氏(うじ)名であった。実際「古事記」や「日本書紀」の神話以前にも国が存在していた訳で、高橋がどこまで遡るかによって、菊池という姓の意味もまた掘り下げる事が出きる筈?
以前、日本家系図学会に出席した時に、某大学教授が高橋姓の由来は後漢の高祖に通じるのでは、という説を発表した。これは”ハシ”という語源がモノとモノを繋げる意から来ているという。箸は”口”と”食べ物”を繋げるモノ。橋は”あちら”と”こちら”を繋げるモノ。それで高橋は?となると、高いというものは天に通じるもので、高い山には魂が集まり、その山を経由して天に昇るもの。高い木もまた天に通じる依り代として存在し、高きは天に通じるものなのである。そこで高橋とは、天に通じる橋。つまり神との交信を意味するものと考えしまう。
後漢の高祖は当時の中国では、神そのものであった。高祖は空を自在に飛びまわり、天に届く程の高さまで上がる鷹を好んで飼っていたと言われる。その神である高祖の鷹が、大陸から日本に流れて来たとしてもおかしくないものである。元々空を自由に飛びまわる鳥は、神の使者として信じられてきた背景があるからだ。つまり古代より日本人は高いもの、大きいものを神として崇め奉った痕跡があるからである。
菊池の由来に、九州にあったという狗奴国(くなこく)の狗古智卑狗(くこちひく)から来ているのでは?というのがある。元来狩猟民族は、動物にその狩猟方法を学んだとされる。その事から当然鷹に対する意識も強かった筈。そして狗奴国は、卑弥呼と相対した狩猟民族なのである。
古代における災害や天災のひとつに、火山の噴火があったらしい。実際遠野にも不地震の森の説(地震の無い、安住の土地の意)というのも存在し、過去に地盤が安定しない時、その天災の影響を受けなかった遠野に沢山の人が流れ着いたのでは?とも言われている。
それが現代からどれくらいの時代にまで遡るかとなると、まだ定かでは無いという。しかしその時代が狗奴国の滅亡時期にかかっているとしたならば、狗奴国(あくまでも九州であった場合)の人々が海を渡り本土に逃げ込んで、安住の地を捜し求め遠野まで辿りついた可能性も否定できない。謎の4世紀は、今でも不確かな為…。
菊池は高橋と意味として、深い繋がりがあるものと思っている。つまり神との交流をする巫女としての存在意味が高橋であり、それを奉る民族として菊池という存在があるものと。
狩猟民族といえばアイヌが思い浮かばれるが、遠野にもアイヌ語らしきものはいくつか存在する。狗奴国の滅亡と共に、狗奴国の人々が本州を駆け上り、海を渡って北海道にまで及び、狗奴国は分散してその血を日本国中に広がり、留めたとしたらつじつまが合う?
菊池という姓というのは、狗奴国時代には存在しないものではあるけれど、遠野という地に当時の狗奴国(くなこく)の党首である狗古智卑狗(くこちひく)という意識と言葉の発する響きが蔓延っていたならば、そのクコチヒクが語音変化し、後々に菊池という姓を名乗る人々が現れても、何らおかしくは無いのだ。
例えば遠野に隣接する川井村には鈴ヶ神社というのがある。義経がその地に訪れ静御前への想いを切々と語った事から、その神社が建立されたと聞く。しかし、当時の人々は(今でも?)シズカという語音を正確に発音できずにスズカと発音されて、その後に鈴ヶという漢字が宛てられ、鈴ヶ神社となったという。ならばクコチヒクという語音も変化し、キクチという語音に取って代わり、後で漢字が宛てられて菊池という姓が誕生したと考えられないだろうか。
キクチとは、民族意識を根底に根ざした、神と通じる為の言霊としての依り代なのではないか・・・。そして当然、高橋という氏名は中国から伝わり、狗奴国を経て、狗古智卑狗(クコチヒク)経由でキクチという音の意識が蔓延したものか?