
岩手県における早池峰の姫神伝説は画像の地図のように、早池峰より上へは伸びていない。また沿岸地区には、姫神伝説が存在しない。ただし、早池峰の姫神である瀬織津比咩の伝播経路は、二系統だと考えている。それはやはり、内陸と沿岸の2系統になるのだろう。沿岸地域に三女神伝説が無いのは、瀬織津比咩が鎮座する山が早池峰に固定され信仰か定着したのであり、敢えて姫神が”ある地”から早池峰へと飛んだという伝説を作る必要が無かったからだと思う。つまり遠野と沿岸地域の流れが円滑であり、早池峰を頂点とする信仰が素直に受け入れられたのだと考えるからだ。
ただし内陸である花巻や稗貫郡の大迫は、遠野早池峰に対する対抗意識が歴史上からも顕著であった。つまり遠野の早池峰の信仰をぼかして正当な早池峰の信仰地は”こちら”であるという意識からの作られた女神伝説の気がする。何故なら岩手三山と呼ばれるものに、岩手山・姫神山・早池峰山があるが、岩手県で一番標高が高い山に岩手山がある。その岩手山は、北上・花巻地区からも見える山であるその岩手山には、坂上田村麻呂伝説も付随する歴史的に由緒ある山でありながら、何故に花巻を中心とする地域には早池峰に関する伝説ばかりあるのか?それはつまり、それだけ早池峰山の霊威が高いと思って良いのだろう。そうであるからこそ、遠野に根付いた早池峰の信仰を奪う形で女神伝説が作られたものだと考える。
遠野三山とは、過去において2つあった。
天ヶ森(756m)→薬師岳(1645m)→早池峰山(1917m)
石上山(1038m)→六角牛山(1294m)→早池峰山(1917m)
何故この2系統があるのかは、以前別の記事で書き記したので省く事にする。
そして、花巻の三女神伝説の三山とは…。
胡四王山(183m)→羽山(355m)→早池峰山(1917m)
胡四王山(183m)→南昌山(848m)→早池峰山(1917m)
単に山の高さを比較しても、花巻の三山を形成する山は、早池峰に比較にならない程に低すぎる。遠野三山が全て1000mを超えるというのに対し、とても話にならない程の低さだ。これら花巻の胡四王山と羽山、そして南昌山は多分、その地域の神奈備として崇められた山であったと思われる。それを強引に早池峰を交えて三山に組み込んだのかもしれない。

また曹洞宗三大本山と呼ばれる寺が、水沢地区にある。俗に「奥の正法寺」と呼ばれる寺だ。この寺は熊野・白山・早池峰が大事に祀られている寺でもある。三女神としてでは無いが、この正法寺に伝わる伝説がある…。

正法寺の境内に早池峰と云ふ小山があり、頂上に早池峰権現を祀っている。
昔当所に蛇体の女神が棲んでいたが、後に閉伊・稗貫・岩手の三郡に跨った
名山早池峰に、其の神は飛んで往ったと謂ふ。この寺の本堂前にある蛇体石
は其の神の残して往った形見だと謂ふている。
「江刺郡昔話」



正法寺で若い修行僧に聞いたところ
「早池峰山とは、正法寺の裏山の事だと思っていました。」という、とぼけた答えが返ってきた。まあ他地域からこの寺に修行に来た為、岩手の立地やら地名は、まだよく理解していなかったのだろう。ただし、裏山を”早池峰山”と称し、年に一度その”早池峰山”に御山がけするのだと述べていた。写真の様に、正法寺の裏手にはミニ早池峰へ登る登山道が整備されており、頂には早池峰の祠があり背後には本物の早池峰山が聳え立ち、ここから遥拝しているようである。また、登って気付くのたが、この山の形はまるで本物の
早池峰山頂→剣ヶ峯→安倍ヶ城への道程を凝縮したような感じであり、まるでミニチュア版早池峰山となっている。これは、本物の早池峰を巡った僧が、似たような地形をそのまま早池峰として祀っているかのようであった。

正法寺の石灯篭や建物内部の天井には、九曜紋が施されている。これは当然、千葉氏の流れから葛西氏に伝わるものの影響もあり、早池峰信仰も突き詰めれば妙見信仰であったと感じる。この早池峰信仰と妙見信仰の展開は、別の機会に書く事とする。

また南部氏の家紋にも、九曜紋が存在する事から、南部氏も当然の事ながら妙見の崇拝者であったろう。とにかく、妙見信仰について書くのは別の機会とする。



また正法寺では
熊野・白山・早池峰を三所権現として祀るのだが、その中に
「富山鎮守早池峰権現」とある。富山といえば白山を思い浮かべるのだが、ここでもう一つ思い出してみよう。熊野から室根山に勧請された
十一面観音の隠れ本尊として運ばれたものの正体は
瀬織津比咩であった。正法寺の七不思議の一つに
飛竜観音があるが、これは
熊野那智の飛龍権現であり、その正体はまた
瀬織津比咩であった。ならば「富山鎮守早池峰権現」の意味は、白山権現と早池峰権現は同じであるという意味ではないのか?そうなればつまり、正法寺で祀る三所権現とは、全て共通する女神という事なのだろう。だからこそ正法寺では、
裏山を”早池峰山”とし、早池峰権現を祀り、その本来の早池峰権現であり、早池峰の女神を遥拝しているのだろう。それは早池峰を祀り信仰する事により、熊野と白山の神を同時に拝むと同じ事であるからなのだろう。とにかく富山の鎮守が早池峰権現であれば、
熊野・白山・早池峰は全て共通する女神である
瀬織津比咩という事になる。つまり早池峰の女神とは、熊野・白山に共通する、それだけ霊威の高い女神であるから、その争奪戦が繰り広げられたと考えるのには無理があろうか?
花巻の三女神伝説は別ブログ
「遠野物語」をwebせよ!で紹介していたので、良かったら見に行って欲しい。