山田の曾富騰(ソホド)という言葉が「古事記」には出てくる。この「ソホド」とは、今では普通に「山田の中の一本足の案山子」と認識されているものだ。ただ古代の言葉には語彙が少なく、いろいろな意味が重複されているのもまた事実。
少し違うが「星」は「火石(ほし)」とも記された。火によって真っ赤に燃えているというイメージが星だ。ただし、これは星でも赤い星であって、金星などを現すようだ。また「ホト」は女陰を表すが、別に「火土」とも表す。やはり「古事記」でイザナミが火の神であるカグツチを産んでホトが焼けて死んでしまった。その時のイザナミの女陰は「火土」であった。
「古今集」を見ると1026と1027に続け様、訳が難しい抽象的な、そしてとても意味深な歌が紹介されている。
「みみなしの山のくちなし得てしがな思ひの色の下染めにせむ」
「足ひきの山田のそほづ己さへ我をほしといふ嬉はしきこと」
1027の歌に表れる「山田のそほづ」は「ソホド」と同じ意味で案山子であり、「そほど」は「ほし」の掛詞になる。ところで「ほし」「欲し」であり「星」にもなる。また「そほど」の「そほ」は古代では「赭」と書いて、塗料などに使った赤い土であり、そのまま赤い色「丹」を表していた。また案山子(かかし)の「かか」もまた赤い色を表す言葉で、「ソホド」「カカシ」両方ともに赤い色の意味があった。
ところで「赤」は「赤ん坊」にも対比される色になるが「垢」のように古くなったものも表す。赤は実が熟すのも表す為に古くなった女房でもあり「祖母」ともなってしまうようだ。なので「そほど」は「祖母土」とも表す。
「古事記」での「そほど」の漢字表記は「曾富騰」となるのだが、分解すると「曾」「富」「騰」で、簡単に訳すると「富を高める古いもの」という意味になる。
「案山子」に関しては吉野裕子が蛇であると紐解いた。「かかし」の「かか」が蛇の古語になるからだ。つまり古くから存在する富と知恵を授けるものが「蛇」という認識になるのだろう。
エデンの園に棲む蛇も、アダムとイヴに知恵を授けた。蛇が鎮座する場所は山であり、そこには「富」や「知恵」など、様々なものがあるのだと信じられたのかもしれない。
「ソホド」が「祖母土」となれば、それは歳を取った「富」と「知恵」を持った存在であり、山の神が女神であように「ソホド」とは「祖母山」として古い蛇が鎮座するという認識にもなるのだろう。調べると「祖母山」とは日本に一箇所だけあった…。