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照井さん「山道のエミシの代表は、征夷大将軍の坂上田村麻呂に降伏し、延暦二一(802年)年に母禮とともに処刑された大墓公阿弖流為で、その本拠地は岩手県奥州市水沢の辺りにあって、実名は「照井」であったと推測されます。」 わたしは、阿弖流為(アテルイ)という名前に関しては調べる事も無く、ただ古代蝦夷独特の名前であり、単純にそうなのかと思っていただけだった。それが実名が「照井」となれば、遠野市にも何件かの照井さんがいる。遠野市の電話帳で確認すると、36件の照井さんがいた。その照井さんを悪く言うわけではないが、天平年間以降国家反逆罪を犯した首謀者は、斬首や島流しに加えて侮蔑的な姓名に改められた事から、阿弖流為(アテルイ)は「大馬鹿の頭領で安保の照井」という姓名に改められたとみられているそうである。 阿弖流為(アテルイ)という名前だが、以前に読んだ及川洵「蝦夷アテルイ」において、「アテルイ」の名前について述べていた。元は「アテリィ」という名かもしれないと。またアイヌ語で解釈しようと「アッテルイ(気前のいい)」ではないかなどと。また他には「アクルイ(弓の名人)」など、アイヌ語で試みるもどれもしっくりきていない様子。アイヌ語解釈は金田一京助「アイヌの生活と民俗」から、遠野にもかなり影響を及ぼしている。 また千城央は、他にも"照井"に関するものを示した。宮城県の迫川の昔は「照井川」だった。宮城県栗原市若柳に「照井様」という祠がある。宮城県大崎市小野田には「照井」の地名と6世紀後期古墳とみられる「照井塚古墳」。宮城県登米市南方町・東和町・東松島市赤井に「照井」の地名。岩手県一関市に「照井堰」。岩手県奥州市前沢区な「照井館」。これら照井の名のある場所から推察するに、照井は馬牧を持つと共に馬を使って船を上流に曳いていた可能性があると述べている。 この照井の元々は、物部系熟エミシに属していたとみられると述べている。坂上田村麻呂がアテルイを河内国へと連れて行ったのは物部の祖先神磐船神社の饒速日神に誓いをさせて助命嘆願させる為だったと。しかし、それも叶わず斬首され、そのアテルイの首は故郷である北へと飛んで行ったとの伝説が残っている。つまりアテルイにとっての故郷は、物部の祖先神を祀る地ではなく、東北の地であったという事か。しかし、アテルイの魂を引き継ぐ照井さんは、未だに東北に多く存在している。
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by dostoev
| 2023-11-12 09:32
| 民俗学雑記
物部氏と遠野(其の二)土淵の始まり「土渕」の「渕」であるが、河原ではよく禊や祭祀が行われていた。同じ土渕の小烏瀬川と琴畑川の合流地点「一の渡」は、カテゴリの遠野地名考「一の渡」で書いたが、一(イチ)が神子(イタコ)を意味する言葉で、河原の祭祀場があったと思われる。そして「渕(フチ)」という名の付く場合、大抵の場合禊場であった可能性を見出している。例えば、霊峰富士山は、火の山で有名になってはいるが、本来は霊峰富士(渕)山であった。天応元年(781年)桓武天皇時代に、富士山が噴煙を上げたのが最古の記録か。それから富士山は火山としての認識が持たれているが、富士の語源の本来は、その麓の水からであった。麓には奇麗な水が湧いており禊場として始まった「渕(フチ)信仰」が本来の富士信仰であった。 諏訪を調べていくと、"諏訪の春日姫"が「大祓祝詞」の女神であった。それが浅間大明神であり、富士(渕)信仰と繋がる浅間信仰になる。また、知らない人が多いが、富士の山頂に"白山"があるのも、元々富士山が水を意識した山であるという事。 遠野の早池峯を東峯と名付けたのが南部氏ではなく、物部氏であったのならば、それは早池峯が物部氏の崇敬する山である守屋山を重ねた可能性がある。諏訪の守屋山であるが、"諏訪明神は元来守屋山から降臨する"と伝えられている事から、土淵が諏訪明神によって開発されたと伝わるのであれば、土淵の地名の発生した常堅寺の建つ一帯が、早池峯の神の降臨地とみるべきだろう。つまり言葉を置き換えるならば「諏訪明神は東峯から降臨する。」または「早池峯明神は東峯から降臨する。」である。白山中居神社の由緒も、白山の女神が降臨する地であった。それと同じ構図を持った伝承が、上郷町の中居に伝わる伝説。その伝説には南部の殿様が登場しているが、恐らく南部氏が早池峯の遥拝所である上郷町の中居の伝説に自身を組み込んだものと思える。その白山を開山したのが、物部氏の同族である秦氏の泰澄。ともかく、土渕の渕は水神の信仰であり、早池峯の神の降臨地であった可能性がある。 ところで「渕」を「水」として考えた場合、陰陽五行において「土」と「水」は相克の関係である。土が水を汚すとされるので、「土渕教育百年の流れ」の「ここには淵があって、常にその水が濁っており、その渕の底を見る事が出来なかったそうだが、アイヌ語で「河の穴」という意である。」との記述はある意味、陰陽五行に則っている。ただ別の可能性として、足洗川が濠だとされるように、土によって川の水を抑制した事から土淵となった可能性もある。何故なら、物部氏の同族に秦氏がいる。秦氏は、土木作業に秀でており、平安京の治水を含めた土木作業を行っている。土渕という地名が、川を制圧した地名である可能性もあるのだろう。
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by dostoev
| 2023-11-11 19:50
| 物部氏と遠野
駒木の周辺(妙見と秦氏)ところでこの「マンコ」だが、現代ではいささか口に出し辛い名称となっているが、本来は目の上の女性に対する尊称であったようだ。また有名な「曽我物語」での曽我兄弟の母親の名は「満江(まんこう)」で、四国の果てまで旅をし伝説を作った事から、あちこちに「まんこ屋敷」と呼ばれる跡地があるらしい。民俗学者の松山義雄は「"まんこ"は、童子の霊の口寄せの巫女の名前であったかもしれない。」と述べている。可能性として、"まんこ"という女長者はいなかっただろうが、"まんこ"と呼ばれた高名な巫女は、この駒木の地にいたのかもしれない。この駒木の地に住んでいた巫女であるまんこの、一頭である愛馬を祀った蒼前堂であるならば、八幡太郎義家の馬を祀ったという話よりも信憑性は高くなるだろう。 また、地域紙である「まつざき歴史がたり」でも「駒木の人々でさえ"駒木館"の存在を知る人は少ない。」と述べている。気になったのはその駒木館のある地形の記述だった。「後ろに高栖山を背負い」とある。これは「琴畑と妙見」でも書いたが、鷹は鍛冶の神でもあり、産金・冶金に深く関わる。その鷹をシンボルとしているのが、古代の豪族である秦氏である。大和岩雄「秦氏の研究」「河内・山城の鷹巣山。鷹尾山・鷹ヶ峰」の項で、「"鷹巣を名乗る氏族が秦氏系"であることからみても、秦氏が鷹をシンボルとしていることは明らかである。」と述べている。とにかく全国の、鷹巣・鷹尾の付く地名・山名に関係しているのが秦氏である。恐らく、駒木館の背後の山の本来の名は、鷹巣山であろう。 #
by dostoev
| 2023-11-06 15:03
| 民俗学雑記
笛吹峠ただ、鉱山などの金属に関係する集団と関わる地に「笛吹」という地名が付く事から、やはり世界遺産登録になった橋野溶鉱炉址を意識せざるおえない。「笛吹」は、鉄を吹く、フイゴを吹くという仕事を意図している言葉になる。フイゴを吹くという行為は、そこに伊吹を伝えるという事で、神霊との結び付きを意図する行為でもある。 北限の海女で有名な岩手県の久慈市に伝わるものとしては、海女が海面に上がって吹き出す息を「常世の風」を招く風招きの風習である。また遠野市の綾織地方では、夜に口笛を吹くと嵐を呼ぶと伝えられている。また同じように青笹地方でもまた、夜に口笛を吹くと大風が吹くと云わっている。綾織地方では、稲刈り後の稲などのゴミが溜まった頃を見計らって、夜に口笛を吹いたものだと云う。そうする事により、収穫後の汚いゴミが全て吹き飛ばされて綺麗になるからだと。だから逆に、普段の日は決して夜に口笛を吹くものじゃないと戒めているそうである。 そもそも、人間の頭という名称の発生は「天の霊(あまのたま)」であり、神霊が降りた部位でもある。その天の霊から生える「髪」は「神」でもあり、「毛」は「気」である。つまり「髪の毛」とは、「神の気」を意味している。そして天の霊の部位である口から吐き出る息は「伊吹」であり、神の霊を吹き入れる行為である。それがタタラのフイゴと連動して考えられている。「上閉伊郡誌下閉伊郡誌」の「吹雪(ふぶき)」が転訛されて「ふえふき」になったという説は、有り得る話ではあるが、遠野の冬は、それこそあちこちで吹雪が発生している。となれば、吹雪を意識した地名がもっと多い筈である。しかし、この笛吹峠の「笛吹」という名を有するのは、橋野溶鉱炉址がある笛吹峠だけである事から、溶鉱炉のフイゴの風を意識した「笛吹」ではないかと考える。
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by dostoev
| 2023-11-05 11:26
| 遠野・語源考
琴畑と妙見(其の四)この鷹巣だが、「遠野物語拾遺17」の冒頭に「小友村字鷹巣の山奥では、」と記されており、金山で栄えた小友町にも鷹巣という地名がある。鷹は鍛冶の神でもあり、産金・冶金に深く関わる。その鷹をシンボルとしているのが、古代の豪族である秦氏である。大和岩雄「秦氏の研究」「河内・山城の鷹巣山。鷹尾山・鷹ヶ峰」の項で、「"鷹巣を名乗る氏族が秦氏系"であることからみても、秦氏が鷹をシンボルとしていることは明らかである。」と述べている。その鷹巣の屋号を持つ人物が、琴畑の総本家であるという。秦氏だが、現在の京都である平安京を造ったのは秦氏によるものとされている。その平安京が完成された後、秦氏は桓武天皇に追われた。その秦氏の一部が北陸へ逃げ延び、輪島塗の祖となっている。恐らく、菊池輝雄氏の述べている「落ち武者伝説」「加賀からおちのびて」は、平家ではなく秦氏を意図しての言葉とであったと思われる。その秦氏は全国に散らばり、幡・波多・旗・畑などが付く地名には秦氏が住み着いている場合が殆どである事からも、琴畑は秦氏が移り住んだ地であるだろう。 ところで前回、白山と早池峯が重なっている事を述べた。その白山という「白い山」の意味だが、鉱山を白山という例もある事からも、白山が単なる「白い山」では無いようである。若尾五雄「金属・鬼・人柱」において若尾氏は「白山の「白」は鉱石と関連があるのではないか…。」と述べている。 白山の頂に「御宝蔵」というものがあり、別に「権現の金蔵」と呼ばれている。早池峯にも似たようなものがあり、小田越から登っての五合目には「御金蔵」と呼ばれるものがあるのは、早池峯そのものが疑似白山でもあるからだ。白山の「白」が鉱石と関係あるとされた場合、それは琴畑渓流を遡って到達する白望山の「白」もまた、同じ意味を持つのだろう。その白望山の金沢寄りには、金糞平と呼ばれるタタラ場があった。そもそも白山を開山した泰澄は、秦氏であった。秦氏であるからこそ、白山に拘るのは当然の事である。ところで琴畑ではなく、同じ土淵の山口から登る境木峠の旧道には、白山様と呼ばれる長者祈願の小高い岩山がある。これは、琴畑の長者屋敷と重なるもので、長者=金の発見という意味になろう。これはつまり、始閣藤蔵が早池峯に向かい「金を見つけたらお宮を建てる」と祈願したものと同じであろう。 植野加代子「秦氏と妙見信仰」読むと、秦氏は機織り、鉱物、酒などを扱う氏族であり、木地師でもあった。そしてそれら物資を輸送する手段として船も扱っていた事からも、水上の安全を願って妙見をも信仰していたようである。「日本霊異記」から、大和川流域に於いて妙見菩薩が祀られている土地には秦氏の存在が確認されている。その妙見神は、白山の女神でもあり、早池峯の女神でもある事から、琴畑の入り口で祀られていた神が、琴畑川での安全を祈願された神であったろう。その一つが、白滝神社であった不動堂の早池峯信仰。もう一つが、琴畑の入り口であり北の早池峯を向いていた地蔵端の神。これらが、金毘羅の神に代わって琴畑の水上の安全を守ってきた妙見の神であるのだろう。
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by dostoev
| 2023-10-31 22:36
| 琴畑と妙見
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