遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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2014年 06月 05日 ( 1 )

「遠野物語110(早池峯神VS八幡神)」

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ゴンゲサマと云ふは、神楽舞の組毎に一づつゝ備はれる木彫の像にして、獅子頭とよく似て少し異なれり。甚だ御利生のあるものなり。新張の八幡社の神楽組のゴンゲサマと、土淵村五日市の神楽組のゴンゲサマと、曾て途中にて争を為せしことあり。新張のゴンゲサマが負けて片耳を失ひたりとて今も無し。毎年村々を舞ひてあるく故、之を見知らぬ者なし。ゴンゲサマの霊験は殊に火伏に在り。右の八幡の神楽組曾て附馬牛村に行きて日暮れ宿を取り兼ねしに、ある貧しき者の家にて快く之を泊めて、五升桝を伏せて其上にゴンゲサマを座ゑ置き、人々は臥したりしに、夜中にがつがつと物を噛む音のするに驚きて起きて見れば、軒端に火の燃え付きてありしを、桝の上なるゴンゲサマ飛び上り飛び上りして火を喰ひ消してありし也と。子供の頭を病む者など、よくゴンゲサマを頼み、その病を齧みてもらふことあり。

                                                     「遠野物語110」

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この話は「遠野物語拾遺58」と重複する話でもある。奇妙に思うのは、どちらの話でも八幡の権現が片耳を取られるという話で、その相手は「遠野物語110」では五日市の神楽は、倭文神社の権現であり、「遠野物語拾遺58」の神楽は新山神社の神楽である。八幡の権現の片耳を噛み千切ったのは、実はどちらも早池峯の神の権現という事である。これは、何か意味があるのであろうか?

奥州藤原氏の初代清衡が、出羽国、陸奥国両国の一万余りの村毎に一ヶ寺を建立したと云われるのは、新山寺であり新山神社だとされている。遠野の新山神社も、その流れを汲んでいるのだろう。元新山神社であった土橋の早池峯神社に伝わる文書には、新山は本来深山であり、早池峯を意味するとしていた。また、明治時代に琴畑から倭文神社に移転された神も、早池峯の神であった。話は明治時代以降の話であるから、ここでの神楽も、早池峯権現であるという意味であろう。つまり、奥州藤原氏の庇護の元に居た神とは、早池峯の神であった。その早池峯を庇護していた奥州藤原氏が、源頼朝に滅ぼされ、その後遠野を支配したのは阿曽沼氏であり、源氏が崇拝する八幡神を持ち込んだのも同じ時期であった。
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例えば、この現代となっても阿曽沼が統治していた光興寺付近の人には、未だに南部は憎しという感情を持っている人がいた。汀家に伝わる開かずの箱にも、やはり南部氏に対する怨念を感じるものが入っていたのを考慮に入れれば、安倍氏が信仰していた早池峯の神を等閑にして、新たに持ち込まれた八幡神を信仰するという事は、許せない行為であったのではなかろうか。しかし真正面から源氏の崇拝した八幡神を否定するわけにはいかずにいた為、鬱積した怨念が密かに伝えられていたのではなかろうか。それが早池峯の神が八幡の神を倒すという構図を、ゴンゲサマの話に託して伝えた可能性があると思ってしまうのだ。
by dostoev | 2014-06-05 18:22 | 「遠野物語考」110話~ | Comments(6)