小峠トンネルの手前を左に入り、笠通山から流れる小川にお不動様がある。この小川は、長雨が続いても濁る事のない川と言われ、高い石の上から落ちる清い水は、昔からお不動様の御水と名付けていたそうである。
昔の話し…街道を行き来する人達は、よくこの水に喉を潤して休んでいたそうである。これに目をつけた小釣魚家(こづるしか)のお爺さんが、小さな店を建ててワラジだの馬沓だのを売り、腰掛台を並べて、旅人の一休みにあれこれと気遣ったので、喉を潤すお滝様の清水と共に旅人に大変評判が上がったと云う。今も草むらの中に、店を並べた面影が探し出すことができるので、探してみてはどうだろう?
人も馬も、この清い流れで喉を潤して一休みしてきたので、誰言うともなく水飲み場の茶屋と言うようになり、遠野の名所とまではいかないまでも誰一人知らぬ者はいない所となったと伝えられる。そしていつの間にか、下記のような小峠の茶屋の小唄が流行るようになったという。
送りたいぞや 送られましょか せめて小峠の茶屋までも昔、土沢方面の大きな店の旦那様が、この流れにしゃがみ込んで水を飲み、一休みしてから家に帰ったところ、懐の財布が無くなっていた事に気付いたという。慌てて夜明け前に引き返して、またお滝様の水飲み場まで戻ってきた。胴巻きの中に縞の二つ折りの財布。
『水を飲むときに滑り落ちたに違いない。あそこの他に思い当たる所は無い。』と一心にあそこ以外にはないと、そればかりを繰り返し念じて、お滝様へと辿り着き、夜明けの中にお滝様の滝壺を祈るような心で覗き込んだらばチラッと財布の耳が見えたそうな。それを拾い上げ、あまりの嬉しさにお礼として、その足で土沢の石工を頼み「お不動様」の石碑と二つ折りの財布の絵まで彫って建てたそうである。それが今尚しっかりと残っている。だんだん山の姿も変わり、流れ来る水も随分少なくなって、石の塔は草の中に埋まり苔生しても、そのお不動様の石塔は昔の姿のままである。