遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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「遠野物語6(山のモノ)」

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遠野郷にては豪農のことを今でも長者と云ふ。青笹村大字糠前の長者の娘、ふと物に取り隠されて年久しくなりしに、同じ村の何某と云ふ猟師、或日山に入りて一人の女に遭ふ。恐ろしくなりて之を撃たんとせしに、何をぢでは無いか、ぶつなと云ふ。驚きてよく見れば彼の長者がまな娘なり。何故にこんな処には居るぞと問へば、或物に取られて今は其妻となれり。子もあまた生みたれど、すべて夫が食ひ尽して一人此の如く在り。おのれは此地に一生涯を送ることになるべし。人にも言ふな。御身も危ふければ疾く帰れと云ふまゝに、其在所をも問ひ明らめずして遁げ還れりと云ふ。

                                                         「遠野物語6」

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神隠しに遭う、もしくは山へと逃げる女の話が、いくつか「遠野物語」に紹介されている。その山で女に遭遇する殆どが、やはり山へと出入りする猟師であった。例えば現代では、人が行方不明になれば山を捜索したりするものであるが、この時代、里のどこを探しても見つからなくとも、山を探すという事は稀のようである。里人にとって、それだけ山は恐ろしい場所であり、滅多に寄り付かない場所であったのだろう。だからこそ、獣以外は誰も居ない筈だと思っている山で女に遭遇した時、人間では無いだろうという思考が過り、恐怖に怯えてしまうのだろう。

ところで、この長者の娘は「物に取り隠されて」と言っているが、その"物"とは山男であるのは間違いないだろう。「日本書紀」や「万葉集」などでは、「鬼」という字を「もの」「しこ」「かみ」と訓じている。それは、言霊が生きているからでもあった。例えば、物陰に鬼が潜んでいるのに気付いた時「物陰に鬼が潜んでいる。」とは言ってはいけない。「鬼」という言葉を発すれば、その鬼がこちらに寄って来ると信じられていたからだ。それ故この場合は、山男とは言わずに"物"と言うしか無かったのだろう。

ただ、子供を食い尽くしたという発言は、創作であるか、もしくは人身売買であった可能性があるか。人身売買の歴史は古く、「日本書紀(天武天皇記)」に人身売買の許可申請が成されている。それもやはり子供が主体であったようだ。公には許可にはならないが、密売は横行していたようである。食べたというより、売ったという方が現実的ではなかろうか。とにかく、こういう話が里人に伝われば、益々山とは恐ろしい場所であると認識されるのだろう。
by dostoev | 2015-04-02 17:06 | 「遠野物語考」1話~ | Comments(0)
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