ウィキペディアによれば
「インド由来の仏教尊像ではなく、中国の道教思想に由来し、日本の民間信仰である庚申信仰の中で独自に発展した尊像である。庚申講の本尊として知られ、三尸を押さえる神とされる。」
つまり、日本で誕生した新たな神仏の形なのだろう。ところで
「日本石仏辞典」によれば、下記の様に青面金剛を記している。
一身四手、左辺の上手は三脵叉を把る。下手は棒を把る。右辺の上手は掌に一輪を把し、下手は羂索を把る。其の身は青色、面に大いに口を張り、狗牙は上出し、眼は赤きこと血の如く、面に三眼あり、頂に髑髏を戴き、頭髪は竪に聳え、火焔の色の如し。頂に大蛇を纏い、両膊に各、倒に懸ける一龍有り。 竜頭は相向う。其の像、腰に二大赤蛇を纏う。両脚腕上に亦大赤蛇を纏い、把る所の棒状も亦大蛇を纏う。虎皮を胯に縵す。髑髏の瓔珞、像の両脚下に各、一鬼を安ず。 其の像の左右両辺に各、当に一青衣の童子作るべし。髪髻両角、手に香炉を執り、其の像の右辺に、二薬叉を作る。一は赤、一は黄、刀を執り索を執る。其の像の左辺に二薬叉を作る。一は白、一は黒。銷を執り、叉を執る。形像並びに皆甚だ怖畏すべし。
画像の青面金剛像を見ても、解説の通り賑やかではある。ただ気になるのは、解説の中に登場する竜蛇の数である。全部で8匹は、八岐大蛇をイメージさせる。いや星の信仰でもあるので、どちらかといえば
羅睺に近いのだろう。
羅睺はインドではラーフと呼ばれ、九曜の一つとされている。ところで九曜といえば、遠野には九曜紋を有する神社仏閣が多い。九曜とは太陽と月、そして七つの星から構成されている。つまり大まかに分けてしまえば「太陽・月・星」の三光という事。
この青面金剛像を見ると、左右の上に三日月と太陽が刻まれているのがわかる。つまり、星を中心として太陽と月を脇に置いている形で、これを仏像として表せば、左右に月光菩薩と日光菩薩が置かれている様なもの。ただ九曜は、土曜(聖観音)、水曜(弥勒)、木曜(薬師)、火曜(虚空蔵)、金曜(阿弥陀)、月曜(勢至)、日曜(千手観音)、計都(釈迦)、羅睺(不動明王)の9つの星を「九曜曼荼羅」として信仰されており、一つの星を中心に取り囲む図は満月を意味するとも云われている。恐らく人の考えによって、様々な捉え方が成されたのかもしれない。
九曜紋の他に八曜紋、七曜紋などがあるのだが、先に記した八匹の蛇に呼応するような八曜紋は、一つの星を中心に七つの星が取り囲んでいる形になっている。これは恐らく羅睺を中心に北斗七星が取り囲んでいる形であろう。
牛頭天王を調べ
「祇園縁起」を読んで登場する八王子…いや正確には7王子と1姫なのだが、この話はまるで北斗七星と補星のアルコルの話のようでもあるが違うのは、その一つの姫が余りにも異質であるという事。八王子の一つの姫は、七つの北斗七星とは別の存在の様な星で、それが別名を
蛇毒気神と云う女神であり、牛頭天王を凌駕する程の恐ろしい霊格として、人々に畏怖されていたようだ。
牛頭天王は素戔嗚尊と習合されているが、その素戔嗚尊は八岐大蛇を、どうにか退治し、その尾から十拳剣を手にする。北斗七星は妙見神の剣ともされるのだが、その剣に加わるのが蛇毒気神という女神だと思って良い。天照大神と素戔嗚尊の誓約においても十拳剣から宗像三女神が誕生したように、剣に女神の結び付きは深いのかもしれない。画像の様に、女神を祀る早池峯の上空に北斗七星がいつも輝いているのは、これら一連の流れに乗るものではなかろうか?つまり、女神を中心とした北斗七星信仰に繋がる予感がする。
頭の蛇で思い出すのは、西洋におけるゴルゴン三姉妹だ。ゴルゴン三姉のメドゥーサを倒したペルセウスは、アテナの楯、ヘルメスの翼のあるサンダル、ハデスの隠れ兜などを身に付けた。そして居場所を聞くためにゴルゴンの妹であるグライアイ三姉妹の元に行った。彼女たちは生まれつき醜い老女で、三人でたった一つの眼と一本の歯しか持っていなかった。彼女たちが居場所を教えてくれないために、この眼と歯を奪って脅すことで無理やり聞き出した。そして死者の国の洞窟の中でゴルゴン姉妹を発見し、顔を見ないようにしながら剣でメドゥーサの首を取ることに成功した話は、余りにも有名。しかし本来メドゥーサは単独の女神であったらしく、それをほのめかすのが一つの眼と一つの歯を共有したグライアイ三姉妹なのではないだろうか?
竜蛇神は、何故か女神となる場合が多く、それだけではなくギリシア神話や北欧神話と似た様なモチーフも何故か、日本に伝わっている。その為、日本神話に登場する神々も、ギリシア神話や北欧神話の影響を受けているのではなかろうか。
「青面金剛」は中世に確立されたようだ。古代においての青は黒と同じであったが、この中世の頃には「青」というものは「水」を意味する色として認識された為、恐らく「青面金剛」の「青面」は水を意味するのだろう。「金剛」は、北斗七星を意味する事から、水と北斗七星を結びつける存在が、この「青面金剛」の本来の意味だろうと考えるのだ。そして当然、それは水神でもある妙見信仰に繋がる。