遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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「わたしの怪奇体験談(その16 最終話)」

ふと眠りから覚めたわたしは、時計を見やった。なんと!昼であった。下手すれば、列車に間に合わない。既に10時の列車には遅れてしまっている。12時過ぎの列車の後は、何時か知らないのだ。不安に苛まれたわたしは、駆け足で駅に向かったのだ…。

                   
 息は切れたが、どうにか列車の時刻に間に合ったわたしであった。走った為か、また腹が減ってしまった。だが、食事をしてる時間はない。後5分程で、列車は到着するからだ。その為、駅の売店で飲み物やパン類を急いでたくさん買った。やはり食わせねば成せぬ、成すには食らえである。いざ、パンケ沼なのだ!

                    
 『下沼駅』は、無人駅であった。さらに見渡せば民家など、遥か彼方であった。しかし、なにも無いというのは、この上なく気分が良いものである。駅に面している道路の側に、全景を見渡せる展望台あった。取り敢えずわたしは、その展望台に登り、その全貌を把握することにした。

「絶景かな絶景かな。春のながめは価千金とは小さい小さい…ハテ、うららかな眺めだなあァ…。」

 と、五右衛門の声が聞えてきそうな、眺めであった。ここでわたしは、記念写真をパシャ、パシャ。

「う~ん…。」

 もう一度景色を眺め、その景色をパシャ。

『あそこに見えるのがパンケ沼。あの向こうに輝いているのがペンケ沼か…。』

 わたしは暫くこの展望台でゆっくりした後、今晩お世話になるパンケ沼へと向かった。そのパンケ沼こそが、北海道での『わたしの怪奇体験談』になるとは、つゆ知らずに…。礼文島から今までの体験も、怪奇体験とは言えないでもないが、今度のパンケ沼での出来事こそが、正真正銘の『わたしの怪奇体験談』となったのであった。


最終章「パンケ沼、恐怖の夜」  

                 
 パンケ沼は、駅から歩いて30分の所にあった。

『確かに水溜まりだ…。えぇと…これか?…。』

 〃白樺造りのきれいな小屋〃らしきものは、あるにはあった。ただ、白樺造りではなく、トタン造りの小屋に、白樺の木を立て掛けているだけなのだ。

「…。」

 わたしは声がでなかった。あまりの酷さに…。小屋全体を覆っているトタンが、いくつも捲れあがり、風が吹くと〃バタンッ!バタンッ!〃と大きな音をたてるのであった。わたしはこの小屋の中に入ってみた。中には、古びた長椅子があった。入って、左の窓の側にある長椅子を、今晩のベッド代わりにしようと、そこまで行ったのだったが…。

「臭いな…。」

 なんだか、非常に臭いのだ。この臭さの元を、わたしは探した。見ると、長椅子の足元に、茶色くくすんだ新聞紙が広げてあった。

『…。』

 わたしは緊張の面持ちで、その新聞紙を取り除いた。

「ウワッ!…。」

 なんと、表面がまだ濡れて、悪臭を放っているクソがそこにはあった。多分、今朝か、昨日の晩に生み落とされたものであろう。こんなものの側で、わたしは寝るわけにもいかずに結局、長椅子そのものを、反対側に移動させることにした。荷物を置き、さっそくこの近辺の探索と、写真撮影を始めたわたしであった。

 パンケ沼は、沼そのものであった。遠くから見ると、太陽の光に照らし出され、キラキラと輝いて、きれいなものに感じていたのだが、間近で見ると、水底は泥が積もっており、あぶくがブクブクと噴き出していた。よく見ると〃しじみ〃があった。つまり水質は汚いのであろう。匂いもドブ臭いし…。

 この沼の周辺は、やはり何もない。遠くに牛の姿が見える為、殆ど牧場地帯なのであろう。これでは探索も何もあったものではない。やはりメインは、このパンケ沼なのだ。陽が傾き始め、汚いパンケ沼の水面も輝きだし、どうにか良く見える様になった。この沼の周辺は、本当に何もないのだが、木でできた十字架らしきものと、鉄筋造りの公衆便所だけは、何故かあった。ただ、この公衆便所はあまりに〃汚く〃とても入れる代物ではなかったのだ。それ故、小屋の中のクソも理解出来るというもの、である…。

 ここでは結局、36枚撮りのフィルムを二本使ってしまった。周りの景色はそんなにフィルムを使う程、良くはなかったのだが、この時の太陽の雰囲気を、わたしが気に入った為である。ここでわたしは、大事な事に気づいた。それは、今晩のメシはどうするか、である。

『そうか、すっかり忘れていた…。腹減った…。』

 『豊富駅』の売店で買ったパンが、二つあったが、こんな物でわたしが満足できる筈もない。しかし、近くには売店らしきものもない。列車に乗り、違う場所に行けば、どうにかなるであろうが、今更そんなのは面倒臭い。

『仕方ない、我慢するか…。』

 断腸の思いでわたしは、今晩のメシを諦めたのであった…。薄暗くなると共に、風が出てきた。〃ヒュ~ッ、ビュ~ッ…バタン!バタン!〃と風がトタンを騒がせている。それと共に、少々肌寒くなってもきている…わたしは、小屋の中に避難した。

 〃ヒュ~ッ、バタンッ!ビュ~ッ、バタンッ!〃風がさらに強くなっている。外は益々暗味を帯びてきている。この風とトタンの他には、なにも音がしない。いや!沼がこの風の為に波立てている様だ。〃バシャ~ン…バシャ~ン…〃静かに、不気味に波音が聞こえてくる。

『う~ん…。』

 わたしは何か、嫌な予感がした。思惑がすべて外れ、悪い方、悪い方へと向かっているからだ。こんな時は、良いことがある筈はない。悪い時には、悪い事が重なるものだから。 風とトタンと波。これらの音は、どんな場所にいても気味悪いものである。ましてや暗くなっているし…。周りには誰もいない。叫んだとしても、誰に聞こえよう。まるで、離れ小島にわたしだけが、居る様だった。

 わたしは外を覗いてみた。既に真暗になっている。外灯などある筈もないので、完全な真暗闇になってしまった。ただ、小屋の中で輝いている、わたしの持ってきたロウソクと懐中電灯だけが、わたしの周囲を照らしているだけであった。わたしは、気を紛らす為にどうするか考えた。

『こんな所で本を読むなんて…。それより歌か…。いや…。』

 わたしは外へ出てみることにした。小屋の中でビクビクしてるよりも、いっそ外で跳ね回った方が時間の経つのも早いものであるから…。

 外は完全無欠の真暗闇であった。足下さえ見えないのである。まあ、手元に懐中電灯もあるし、カメラのストロボもある。これでどうにかこうにか、歩くことは出来るのだ。風が、わたしの髪をわやくちゃにさせる。たまに目を閉じ、顔をしかめながら歩かねばならぬ程の突風が吹き捲っていたのだ。当然のことながら沼は〃バシャ~ッ!…バシャ~ッ!〃と荒れ狂っていた。これもまた、最高の夜である。この様な状況に置かれるとわたしは、やはり幽霊等のことを考えてしまうのだ。

『沼といえば…昔『呪いの沼』というのを観たな…。白黒で結構怖かった…。そうか、あれは化け猫の話だったな…。』

 猫というと、現在わたしは二匹の猫を飼っている。名前は〃あたる〃と〃ジャリテン〃である。あたるは自宅で、当然ジャリテンはトラ毛なのだ。これが現在の、わたしの息子となっている。しかしここには、猫も何もいない。ただ水底に〃しじみ〃が生息しているだけである。わたしは沼に近づいてみた。すると…わたしは驚いてしまった。なんと「グワギャーッ!グワギャーッ!」と、水鳥が飛び立ったのである。

 怪奇映画の手法にこういうものがある。〃シーン…〃と音を絞りながら、突然〃ガガ~ンッ!〃と大音響を出し、客を驚かせるものだが、これがまったく〃それ〃であった。わたしは以前何度もそれにやられたことがある。その時のわたしは、悔しくて悔しくて、たまらなかったのだ。その時、その場面で驚いたのは、自分だけに感じたからである。その為わたしは、その映画のそのシーンが再び来るのを、じっと堪えて待っていた。当時、駅前の東映に於ける、三本立ての映画であったから、その三本(約5時間)を繰り返し観たことになる。何故その時そこまで、わたしが頑張ったのかというと、他の観客がその映画のそのシーンで驚くのを観たかったから。つまり暇だったのだ、わたしは…。

 この水鳥の衝撃が、益々わたしを恐怖のどん底へといざなうのであった。しかしもしかして、心霊写真が撮れるかもしれないとわたしは、沼に向かって何度もシャッターを切ってみた。やはりわたしの中には、恐怖と好奇心が同居している様である。怖がりながらも進むのが、どうやらわたしの習性みたいであるから…。
「わたしの怪奇体験談(その16 最終話)」_f0075075_18364167.jpg

 夏であるのに寒い。風が冷たい。わたしは寒さに耐えきれなくなり、小屋に戻った。体が冷えきってしまい、わたしは寝袋を取り出し、その中にくるまった。

「さむ…。」

 時期外れではあるが、わたしは焚き火を炊くことにした。薪になるのは、この小屋の中にたくさんある。わたしは片っ端から、それらを集めた。壁の板も外してみた。よく見るとその板に、なにやら文字が書いてあった。【今年もまた一人でここに来てしまった。】女性であった。横に名前が書いてある。もう、忘れてしまったが…。

「ふ~ん…。」

 どうやら常連の者が、結構泊まりに来ているみたいであった。見渡せばそこらの壁中、文字でびっしりであったから。しかし、女性も一人で泊まりに来ているのには、ビックリした。なんといっても、こんな小屋なのだから。書き忘れたが、この小屋に窓はあるにはあるのだが、ガラスはすべて割れており、とても窓の役目など果たしてはいなかった。だが、こんな小屋でも来るそうな。それも女性が、である。せめてこの日に来て欲しかったのだが、これもわたしにかかる運命なのであろう。結局わたしには、女は無縁なのだ。

 火がつくと、さすがに暖かくなった。だが、じっと火を見つめていると、だんだんと寂しくなるのは何故であろうか?体は暖まるのだが、心が寒くなってしまう、この火であった。この時の、わたしの心は鬱であった。これならば、幽霊でも出てくれた方が、よっぽど嬉しいものである。

『誰か来ないかな…。』

 切実にわたしはこれを願った。いつも大勢でいると楽しいのだが、逆に疲れ、独りが恋しくなってしまう。しかしあまりに独りが続くと、人を求めるものである。誰でもいいのだ。目の前に話し相手がいて欲しい。これが孤独の願いである。人間とは、贅沢なものであるのだ。
 風が炎を揺らしている。耳に入ってくる情報は、炎で木が弾ける音と、風とトタンと波と…。波と…波?

「んっ?」

 なにかおかしいのだ。波の音が…。

「あれっ?なんだ…。」

 〃バシャ~ンッ!…ザバ~ンッ!…ザザ~ンッ!〃という音の他に〃バシャ…バシャ…バシャ…〃といった音。誰かが沼から這い上がってくる様な音が聞こえるのだ。

「えっ…嘘だよな…。」

 わたしは念入りに耳を澄まし、その音を確認してみることにした。

 「〃バシャ…バシャ…バシャ…。バシャ…。…バシャ…バシャ…バシャ…バシャ……〃。」

 やはり風で揺れる、波の音とは違うのだ。わたしは一旦出た寝袋に、もう一度もぐり込んだ。布団とか寝袋にくるまると、何故か安心出来るからだ。まあ、バリアーみたいなものである。音がだんだん近づいて来るのがわかった。これではわたしも、真剣にならねばならない。グッと身を堪え、その音を待ち受けたわたしであった。すると…〃チリ~ン…〃と鳴った様な気がした。

「えっ!…。」

 わたしは一瞬ビクッとした。まさか…だからだ。誰かが沼から這い上がってくる様な音は、いつの間には消えていた。ただ、風…。

「空耳か…。」

 暫く寝袋の中にいたのだが、何も無くなった様なので、再び出た。焚き火に手をかざし、わたしは考えた。

『ここは北海道で、遠野じゃない…。まさかこんな所で、風鈴なんか…。まさかな…。い
や、終わったわけじゃないし…。もしかして…。』


 わたしは不審な音がないかどうか、耳を澄まし探した。じっと、外の音に耳を傾けていたわたしは、再び風鈴の音を発見した…様な気がした。

「〃チリ~ン…。チリ~ン…。チリ~ン…。〃」

『んっ!…。』


 遠野で既に、この音には馴れてしまったわたしであったが、こんな所まで付いて来られると、さすがに良い気はしないものである。やはりどうも〃怖さ〃は、避けられない様である。わたしはもう一度、寝袋の中に入り込んだ。

『もう寝よ…。寝なきゃ…。明日、帰ろ…。何でこんなとこに来たんだ…。腹減った…。
腹減って寝れないな…。でも早く寝なきゃ…。早く朝、来ないかな…。腹減った…。』

 わたしはとにかく、早く寝ることだけを考えた。寝てしまえば時間が経つのなど、あっという間だからだ。遠野であったならば、勝手知った場所の為、ドアを開け、確認していたのであろうが、異郷の地である北海道では、それは出来なかった。叫んでも、誰も出てくれない。すぐ側には、誰もいないのだ。だが、腹が減って寝ることが出来ない。黙って目を閉じていれば、〃音〃が響き渡り、わたしにとって悪循環となっている。

 焚き火の炎が弱くなってきていた。寝るのだから、消えてもいいのだが、消えると何故か寂しいものなのだ。わたしは仕方がなく、寝袋から這い出し、焚木をくべた。

「んっ?…」

 わたしはここで、新たな音を発見した。〃キ、キキキィー。〃という金属がきしむ音である。それが二重にダブッて聞こえてくる。

『なんだ…。なんだ…。』

 すると足音が、響いてきた。こっちに向かって来る様である。わたしは自然と、隅に寄っていた。〃ザッ…ザッ…ザッ…〃と、音が向かって来る。

「…。」

 緊張が走り、壱岐を飲む自分であった。すると〃パターンッ!〃と風の為か…ドアが開け放たれた。

「うわっ!」

 わたしはこの時、おもいっきり驚いてしまった。すると、その後に…。

「こんばんわ~っ。」

 少々気が抜ける声が聞こえた。見ると人がドアの前に立っている。

「すみません。今晩ここで泊まってもいいですか?」

 一瞬わたしは、なんだか分からなかったが…。

「あ、ああっ!はい。どうぞ、どうぞ!」

 恋焦れていた…待ちに待った…人がやっと、わたしの前に現れたのだ。

「驚きました?今、僕たちが来た時、大声を出した様でしたけど…。」

「ああ、いや、アハハ…。」


 わたしはこの時、遠野での出来事も含め、全部話して聞かせたのだった…。

 ここに来たのは二人で、どちらも自転車野郎であった。初めはお互いに、敬語で話していたのだが、会話が進むに従い、ざっくばらんになってきた。この二人は元々一緒に来たのではなく、北海道の洞爺湖にあるユースで意気投合し、この道北まで一緒に来たのだそうだ。旅は道連れ、世は情けである。わたしはついでに、この〃旅は道連れ、世は情け〃に便乗することにした。

「すまないけど…。なにか食べるのある?…。」

「えっ?」

「いや、実は…。」


 と、何も食べることが出来なかった理論を、この時やっと説明し、やっと、やっと、やっと、待ちに待った〃メシ〃にありつくことが出来たわたしであった。缶詰ばかりであったが、空腹が最高潮に達していた為、おいしく食べることができた。さらに、コーヒーも持参していた為、食後のコーヒーも戴けた。

 わたしは人が二人も増えた為、急に勇気が沸き上がり、この二人を連れ、外へと飛び出したのである。

「やはり心霊写真を撮るには、沼をバックにした方がいいよ。」

 わたしは三脚にカメラを設置し、記念写真を撮ることにした。

「ここでいいか。」

「ああ、そこそこ、そこでいいよ。」

 「次は、あっちで撮ろう」


 とばかり、何故かこの夜のパンケ沼で、写真を撮ったわたしたちである。そしてそれから小屋に戻り、あれこれと会話が進み、いつの間にか自然に眠りに入ったわたしたちであった…。
 これが、この旅行での、始めての人とのふれあいの様に感じた。見知らぬ者同士でも、結構仲良くやれるものだと、この時初めて思ったものである。独りから解放されたおかげで、恐怖などすっかり無くなってしまった。独りでは想像力がたくましくなり過ぎて、いらぬことばかり考えてしまうものである。やはり、誰でもいい。わたしの側に一人でいい。誰か話し相手が欲しいものだ…。
                   
 翌朝、わたしは自転車野郎と別れ、わたし自身もこのパンケ沼、この下沼、この道北に別れを告げた。そしてこれから懐かしの遠野へと、向かうこととなるのだ。いろいろあったが、この旅行は楽しかった。本当に、心と体に残る、楽しい旅行であった。もう一度、来てもいいが、まだまだ行きたい場所はたくさんある。ありすぎて困っているくらいだ。ここが終わったら、次はあそこ。これがわたしの生き方の様である。どうも土着民族には成れそうもない。やはりわたしは、遊牧民族が合っているのだろう。わたしの旅は、まだまだ続くのだ!


                                     
 旅先のフィルムの現像が出来てきた。わたしはいつも、スライドフィルムを使用している。須藤写真館のおにいちゃんから、安く映写機を買ってから、スライドフィルムの愛好者となったのだ。観る時は、部屋を真暗にして観る為、なにか映画を観る様でスライドが好きになったしまったのである。
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 〃ガシャ~ンッ…ガシャ~ンッ〃と、暗闇の中、旅行での映像が流れる。礼文島での…。『豊富』での…。そしてパンケ沼での…。すべて懐かしいものである。『パンケ沼か…。ここは、怖かったな…。ああ、この小屋か…。クソもあったし、汚かったな………あれ?…えっ!…。』

 この時の映写機は、昼間に「今晩ここでお世話になるよ。」と、この小屋に敬意を表すため撮った、小屋だけの写真なのだ。見るとガラスがまったく無い窓に…窓に…。この時、わたしの背筋はゾッとした。なんと…窓の左上に、女性の姿が写っているではないか!
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「でぇ~っ!!!…。」
by dostoev | 2013-04-21 19:05 | わたしの怪奇体験談
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