遠野の不思議と名所の紹介と共に、遠野世界の探求
by dostoev
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「わたしの怪奇体験談(その15)」

『豊富』は、小さな町であった。温泉は、バスで30分ばかりの場所にある。わたしは、すぐさまバスに乗り、温泉場に向かった。穏やかな日であった。夏の快晴ではあるが、陽射しはやわらかく、ウトウトとしたバスの中であった。他の乗客は、近所の人たちのようで、

「あ、ここで止めてくれ。」

「いつものところで。」


 まるでバス停とは関係無い場所で、乗ったり降りたりしていた。こんな土地柄の為か、『豊富温泉』もひなびた場所であった。観光地というわけではなく、この温泉もバス同様、土地の人たちの為にあるようなものであった。

 共同浴場の料金を払い、中へと入ってみた。やはり、付近の人たちが集まり、よもやま話に花を咲かせていた。わたしはその光景を軽く眺め、風呂へと向かった…。

 温泉そのものは、ビックリするものであった。多分、瀘過がなされて無いのであろう。温泉の色は、まるっきりの茶色で、底がまるで見えないのだ。いつもならば、温泉の味をみるのだが、あまりの色に、それをすることが出来なかった。気持ち悪いからである。しかし、凄い温まり様であった。温度は温かいのだが、入った途端、ダラダラと汗が流れ落ちてくるのだ。まるでサウナである。我慢して入っていたが、限界がきた。わたしは素早く温泉から上り、脱衣所で、暫くボーッとしていたのである。涼む為であった…。

 さて、温泉に入れればもう、こんな所には用はない。すぐにバスの時間を調べ、『豊富温泉』を後にしたのだった…。

                   
 わたしは『豊富駅』に着いたのだ、3時過ぎであった。さて、今度はどこに行こうか、である。再びパンフレットを広げると、貸し自転車で『サロベツ原野』見ようとあった。なにぶん暇なわたしは、それに従ったのである…。

 自転車に乗って走るには、非常に気持ち良いコースであった。天気も良かった為であろうが、バイクではないが『風とお友だち』になった気がした。辺り一面〃菜の花畑〃というのがあった。わたしは今までにこういうのは、写真でしか見た事がなかった為、非常に感激したのである。〃菜の花畑〃に喜ぶというのは、女みたいであるが、男にも女性ホルモンが分泌されているのだから、男でも少々、少女チックなところがあったとしてもよかろう。男だって結構女々しいものだし…。

 パンフレットに、小さな池の地図があった。池とか沼とかが、わたしは大好きで、なにも考えず、そこに直行したのだった。そこで〃あるもの〃がわたしを待ち受けているのも知らずに…。

                   
『地図からすると、どうやらこの辺りだな…。』

 わたしは道路脇に自転車を止め、奥へと広がる林の中に入って行った。いや、林というか、ジメジメした湿地帯であった。体で感じる湿気と、柔らかい地面から、わたしはそう思ったのだった。まあどうせ、池へと向かっているのだから、これでいいのである。

 歩くほどに薄暗くなってきた。木々が空を覆い尽くしている為である。わたしは無意識のうちに腕を掻いていた。見るとどうやら、蚊に刺された様である。

「ちぇっ!蚊か…。」

 すると蚊が、もう一度わたしから血を奪おうと、腕にとまった。わたしはおもいっきり、〃バシーンッ!〃と、わたしの腕もろとも、その蚊を叩き潰した。ことろが蚊の攻撃は、これだけでは済まなかったのだ。足もかゆいし、背中もかゆい。ありとあらゆる体の箇所が、蚊に食われた為、かゆくてかゆくて仕方が無かった。だが、愚かなわたしは、周りの状況を確認せず、ただ意識だけが池へ池へと向かっていた。すぐに引き返せば良かったのだが…。

 かゆみを堪え、わたしは奥へと入って行った。が、気づく度に蚊に食われた箇所は、増えてきている。そして、やっとであった。わたしは落ち着いて、周りをゆっくりと見やった。なんと!無数の蚊の大群が、わたしを取り囲んでいるのである。

「なっ!?…。」

 わたしはこの場から、一目散に逃げ出した。勝てるわけがないからである。走った、走った、わたしは無我夢中で走った…。そして命からがら、どうにか逃げおおせたのである。 一般に血を吸うのは、メスの蚊である。これは産卵の為であるが、普段は果物等の汁を吸ってでも生きていけるのだ。だが、血の通った生き物が、もしその蚊の範中に入って来たのならば、挙って、その血を狙い、押し寄せて来るのだ。わたしはそれを知っていながら、すっかり忘れていたのである。いろんな情報、知識を、いくら頭の中に蓄えていたとしても、それがその場の状況に合わせ、すぐに活用できなければ、そんな知識など無意味なのである。過ぎてから考えても、もう手遅れなのである。それをわたしは、この時に味わったのである。

                    
 蚊の集落地帯から逃げおおせたわたしは、海の見える『サロベツ原野』にて、一息ついていた。ここでもまた、夕日を見つめるわたしであった。わたしはどうしようもなく、陽が昇り陽が沈む瞬間というのが、好きで好きでたまらないのだ。ただ、見ることだできれば、それでいいのだ。「素晴らしい…。」とか、「美しい…。」などという言葉など、一切出てこない。その時のわたしの頭の中は、カラッポなのだ。太陽の雄大さに、圧倒されている為であろう。もしかしてその瞬間こそが、今に於けるわたしの最も幸せな時なのかもしれない…。

                   
 暗くなり、わたしは『豊富駅』に帰って来た。人通りは寂しくなっている。わたしは、気まずい思いで自転車を返しに行った。約束の時間を、大幅に破った為である。案の定、貸し自転車屋のオバチャンから、一言、二言、注意されてしまった。仕方あるまい…。

 わたしは無性に腹が減っていた。近くに食堂があったので、とにかくそこへ入り、腹一杯なにか食べるのだ!と、勢い向かったわたしである。〃汚い食堂〃のメニューは、ごく一般的であった。そのメニューの中でボリュームがあるといったら『カツ定食』である。その大盛りを、わたしは頼んだ。その『カツ定食』は旨いとはいえなかったが、わたしの腹をどうにか満足させることはできた。

 さて、メシをくったら、後は寝るだけである。といっても、寝るにはまだ早い。それに、今晩の寝床をまだ決めていないし…。とにかくわたしは、この町の憩いの場所でもありそうな、『豊富駅』で休憩することにした。駅には、二人の待ち人がいた。黙って列車を待っている風である。わたしも右にならい、椅子に腰掛け、パンフレットを開き見た。明日はどうする、どこへ行くである。パンフレットによると、近くに〃パンケ沼〃というのがあるらしい。その沼は、草原の中にポツリと水溜まりの様にある沼なそうだ。そしてその沼の側には〃白樺造りのきれいな小屋〃があるそうなのだ。寝袋があれば泊まれると書いてある。金を払い、民宿や旅館などに泊まるより、よっぽど経済的で情緒に溢れている。泊まらぬ手はないのだ!

 これで明日の寝床は決まった。後は、今晩の…である。しかし既に、わたしの心は、ある場所に決めつつあった。それはこの駅である。夏の為に寒くはないし、疲れと満腹のせいか、動くのが嫌になってきた為である。

『どうする、どうする…。』

 と、考えながらも…いや、考えるのが長ければ長くなる程、駅に泊まる公算が強くなっていくのだった。

『いいや、ここで寝よ。』

 これで決定である。後は、眠るまでの間、何をするかである。わたしは持参の文庫本を取り出し読むことにした。本を読めば、眠りも早いからである。本の題名はジェフリー・アーチャー作『百万ドルをとり返せ!』であった。この作品は結構面白く、結局十二時過ぎまでかかった。だが、全部読んだわけではなく、あまりの面白さに、これでは徹夜してしまう、という危機感から、途中で読書を切り上げたのであった。

「…寝るか…。」

 長椅子をベッドがわりに、寝袋を布団がわりに、わたしは寝ることにした。寝袋の中に入るにはまだまだ暑い…。

 うっすらとした明りの中、わたしは目を閉じた。するとどこからともなく〃プゥ~ン〃という、蚊の羽音が聞こえてくるではないか。昼間、あれ程わたしの血を吸ったにもかかわらず、まだ足りないとみえる。わたしは目を閉じたまま、手でその〃音〃を払い退けた。しかし、執念深くその〃音〃は何度も何度も、わたしの回りをまわっていた。すると今度、は、〃プゥ~ン〃が〃プ、プゥ~ゥ~ンッ〃と聞こえてきた。蚊の羽音の二重奏であろ。そして再び、やられてしまった。いつの間にか、足を食われていたのである。が、わたしはそのままの状態で、しばらく我慢した。しかし、我慢にも限度がある。わたしはガバッ!と飛び起き、持参のキンチョールで蚊の退治を始めた。

 夜の駅で殺虫剤を吹きかけ回っている姿は、ちょっと人には恥ずかしく、見られたくないものであるが、この時は本当に必死であった。やはり、眠りを邪魔されるのは嫌だからだ。わたしが害虫をとる時は、何故か夢中になってしまう。これがわたしに与えられた宿命の様に、一生懸命、虫退治に励むのである。

 名古屋にいた時の、わたしの住んでいたオンボロ・アパートは酷かった。昼間はアリの行列が行き来して、夜、必死に殺したゴキブリを運んで行くのだ。すぐ側が、ゴミの収集所でもあったせいか、ハエもたくさん、本当にたくさん部屋の中に入ってきた。ハエ叩きを買ってきたわたしは、夢中になってハエを殺した。そう、昼間はアリとハエの駆除で忙しく、夜は夜で、ゴキブリの駆除に忙しい一日であったのだ。そしてさらに暖かくなると、蚊と蛾が出入りするのだ。こうなるともう大変である。殺虫剤を部屋中に振り撒き、落ち着くまで、外を散歩してくるのである。窓を閉めれば、虫は入って来ないのだろうが、オンボロ・アパートで、冷房も扇風機もない。さらに網戸もないのだ。それに窓を閉めて、暑いのを我慢することなどと…名古屋の夏は、そんなに甘いものではないのだ!

 この様な名古屋のオンボロ・アパートで、わたしは自己最高記録を打ちたてた。それは、ゴキブリ殺傷数が一晩で、53匹である。これは輝かしい記録である…。このいまいましい蚊の為に、話は飛んでしまったが、ここで戻そう。結局この晩、わたしはこの蚊に悩まされ、3時過ぎまで起きて〃励んでいた〃。殆ど素通しのこの駅は、殺しても殺しても、蚊がやって来た為である。この事からわたしの『豊富』に対する思い出は、〃蚊〃だけである。

                   
 朝5時過ぎから、駅が騒々しくなった為、わたしは目が覚めた。いや、目が覚めたというか、なんだか全然寝ていないような気がした。だから無性に眠かった。頭もボーッとしている。だが、駅員さんに迷惑かけない様に、すみやかに荷物を整理し、隅に寄らなければいけない。そうしなければいけないと、何故か急いでそれを行ったのだった。そうして、隅に寄ったわたしは、ただボーッと時を過ごしたのでった…。

                   
 腹が減った。朝である。なんだかやっと、朝が来た様な気がした。周囲では慌ただしく、人が行き来している。俗に言う、朝のラッシュである。まあ『豊富』などでは、たかがしれてるだが…。

 8時ちょっと前ではあったが、昨晩入った食堂がもう開いていた。わたしはとにかくメシを食う為、もう一度入ることにした。

「ごめんください。」

 中ではオバチャンがテレビを観ながら、お茶をすすっていた。

「いらっしゃいませ。」

 わたしの声と姿に反応し、やまびこを返してくれたオバチャンであった。

「何?できます。」

「そうね、朝は定食類だよ。」

「はあ…。」


 と、わたしがメニューを見てると、

「おにいちゃん、昨日の夜も来たね。」

「あ、はい。」

「どこに泊まったの?」

「はあ…。駅ですが…。」

「あら~っ、駅にかい!なんだね言ってくれれば泊めてやったのに…。そうかい、そうかい、 駅にね…。寒くなかったかい。」

「ええ、それは大丈夫でしたが、ただ蚊がちょっと…。」

「あらあら…。それよりおにいちゃん、どこから来たんだい?」

「札幌というか…家は岩手ですけど…。」

「へぇ~っ、岩手かい。そのわりに訛りがないんだね…。」

「まあ…。それより、すみませんけど、目玉焼き定食頼めますか。」

「ああっ!はい。ちょっと待っててね!」


 どうやらやっと、メシにありつけそうである。このオバチャンは、この後何度もわたしを質問攻めで苦しめたのだった…。

                   
 どうにか食事を終え、わたしは駅に戻った。目指すパンケ沼がある『下山駅』へ向かう列車の時刻を調べる為である。この様な場所では、一日の列車の本数が少ないのは知っている。するとどうやら…メシを食っている間に、行ってしまった様だった。

『仕方がない、次は…。』

 次は、10時。その次か12時過ぎであった。わたしはそれまでの間、どこかで休むことにした。駅前の通りを左に抜け、わたしは昨日、自転車で行ったコースに向かって歩いた。暖かな日よりであった。途中、芝生があったのでそこでわたしは、横になることにした。横になると、今度は今まで影を潜めていた眠気が全身を覆った。こうなればもう、寝るしかないのである。そしてわたしは、眠りについた。安眠であった、あった、あった…。
by dostoev | 2013-04-20 12:13 | わたしの怪奇体験談
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