【遠野の狼岩】
附馬牛に、旅の母と娘が早池峰参拝の途中に立ち寄ったのだという。しかし吹雪の為、これ以上進むのは難儀なので、どこかに泊めてもおうとしたが、どこにも断られてしまったのだと。仕方ないので、その吹雪の中、母と娘は早池峰神社まで行って、そこで一夜を明かす事にしたそうな。
その翌日、早池峰神社に寒さの為、凍えて死んでいる母親の姿があったそうだが、娘の姿は見えなかったという。きっと狼にでもさらわれて行かれたに違いないと、村人は噂し合ったのだと。
それから暫くの後の春、附馬牛の村が狼の群れに襲われたのだと。馬や牛の家畜が襲われ、その被害は大変なものであったそうな。狼達の棲家は早池峰であるという事から、村人の中から血気盛んな者
達が銃や弓矢を持ち寄り、狼退治に早池峰へと向かったのだという。
狼の群れを発見した村人達は一斉に攻撃したというが、狼達の反撃の前に恐れをなして、逃げ始めたという。数人の村人が狼の犠牲になりかけた時、一人の少女の声に村人に対する攻撃をやめたそうな。その少女の側には、銀色の毛並みを持つ、一匹の大きな狼と他に二匹の狼がいたという。
その後一人の鉄砲自慢の男が、その大きな銀色の狼を撃ち殺そうと、早池峰の山へと向かったそうな。満月の夜、早池峰のある場所で、月の光に照らし出され銀色に輝いている一匹の狼を発見し、鉄砲で狙いを付け、撃ったという。しかし、その鉄砲の弾は、側にいた一人の少女に当たってしまったと。銀色の狼は、怒りに狂いその撃った男を噛み殺してしまったのだという。しかし息絶え絶えに、その少女はそれ以上人間には復讐してはならないと告げ、ついに息を引き取ったのだと。
それからその大きな銀色の狼と他の狼は、悲しみに暮れ、早池峰の奥へと進み、何晩も咆え続け、最後には石になってしまったという。今でもその狼が石になった狼石は、早池峰のどこかにあるという。
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以前、古老から聞いた「狼石」の亜流の話だが、最近「狼岩」というのがあるという話を聞いた。それは「狼岩線」という林道が通っている山の頂に、その岩があるというので、取り敢えず行ってみた。
話を聞いた古老はもう既に、この世を去っている。話もメモでは無く、耳で聴いた話を書き残しただけだった。どこか漠然とした物語ではあったが、まさか「狼岩線」という林道があるとは知らなんだ…。
取り敢えず林道を走ってみたが、今でも営林署が使用しているのか、そんなに酷くない林道であった。この狼岩林道は、一つの小高い山の周囲を巡るように走っている。途中、広い場所に出くわしたので、車を置いて少々狭くなった林道を歩いてみた。奥まで続いている林道ではあるが、頂までの道は、無いようだ。そこで仕方なく、獣道らしきを登って頂へと行ってみる事にした。時間にして20分くらいだろうか?すぐに頂へと着いた。
頂は、平坦になっていた。周囲は木々で覆われている為に視界は悪い。しかし、木が無かったら恐らく早池峰が見えるのではなかろうか?
頂の中央辺り、丁度枯れ木の傍に三つの…丁度犬の大きさくらいの石が、寄り添うように三つ連なっていた。もしかして、これが狼岩なのだろうか?しかし普段に誰も来ない、こんな山の頂に「狼岩」という立て看板がある筈もない。あくまで憶測で感じるしかないのだ。そうこうしているうちに、大粒の雨が降ってきた。取り敢えずここは退散しようと思ったら…帰り道がわからない…(^^;
周囲を見渡しても、似たような感じの風景。ただ来た方向感覚だけで、帰る事にした。一度、一気に山を降ってみたが…まったく見た事も無い場所だったので、慌てて山頂に戻り、一旦休憩する事にした。
ふと足元を見ると、赤い甲虫が歩いていた。どうもセンチコガネらしい。いわゆるスカラベの類だ。自分は、この遠野で赤いセンチコガネに遭遇したのは初めての事だった。このスカラベの向かおうとする方向を見ると、何となく自分が、この方向から来たような気がする。とにかく行ってみる事にした。暫く山の斜面を降りてみると、削られたような土が露出した法面が見えた。絶対に、人工の林道であると確信し、一気に下り降りたら…あったよ林道が(TT)
降りた林道は、それでも車を置いた場所から、かなり下った場所だった。林道をてくてく歩いて、やっと車の場所まで到着。時間を見ると2時半を回っていた。急いで帰らないと夕方の仕事に差し支えるので、急いで車で走り帰ったのだった。
今回は、赤いスカラベに助けられた気がしたが、本当に360度に広がる平坦な山というものは、何も目印になるものが無いので、適当に降ってはヤバイ。やはり磁石は携帯した方がいいだろう…。