遠野郷の付近に、美しい娘を持った百姓がいた。その娘に、どこからか通うて来るか、一人の美男子が毎夜通うてきた。母親は、その男の衣服の縞模様が夜目にも著しく鮮やかなので不審に思い、娘にそれとなく注意をするところがあった。
ある夜、いつもの如くに通うて来たのに、今夜は豆煎りをして御馳走しましょうといって、大きな鍋に豆を入れて炉にかけ、娘はちょっと立って、なにとぞ妾が来るまで、この箆でもって豆を掻き回してくださいというと、男は快くそれを受け取ったが、なかなか豆を掻き回す事をせぬ。
次の間から娘が豆が黒焦げになるから早く掻き回せて下さいというと、ああよしよしと言って蛇体になり、鍵に絡まり、尾でもって鍋の中の豆を掻き回していたが、ついに鍋の中に落ちて焼け死にしたという事である。