昔、ある若者がおったそうな。この若者が年頃になり、婿入りをして働き者と呼ばれる程の良い男であったそうな。ある年の事、生家の金毘羅講に招かれて、家に着くやすぐさま厩に行き、馬の手入れをして、三頭の馬を連れて川の方へと行ったそうだと。
その後暫くして三頭の馬はヒンヒンと泣きながら手綱を切って家に戻って来たそうな。金毘羅講に集まっていた人達は若者に何かあったに違いないと、大声を出して、若者を探し始めたのだという。
すると向こうで草刈をしていた爺様が来て「さっき、淵の辺りで大声でアッハッハッ!という笑い声がした。きっとカッパにくすぐられて、馬の手綱を放し、淵に引き込まれたのかもしれない。」と言うのであった。それで皆で探しに行ったら、穴あき淵の穴あき岩のところに若者の亡骸があったと伝えられる。その時の若者の腹には、大穴が開いていたという事である。
河童は尻こ玉を引き抜く話があるけが、別に人間の生き胆を食らう話もある。ここでの若者の死は、腹を裂かれ生き胆を河童に食われた非業の死を現したものであったのだろう。