夏の宵の頃、某さんは何かの用事で庭先に立っていた時の事であったという。急にあたりが不思議に明るくなった事に気付いて振り向いたところ、向かいの手代森の付近から、丁度お月様のような大きさの光の玉が輝きながら、音も立てずに、滑るように飛んでいたという。明るさはお月様くらいで、地上のものがなんでも見える程であったそうな。
某さんは、ただじっとその場に立ち竦み、その光り物を見つめていたのだと。その光り物は、中空を滑るようにして某さんの目の前を通り過ぎ、某家の屋根の上まで差し掛かった時にパッと消えてしまったのだと。決してスーッと消えるのでは無く、パッと消えたのだと訴えた。こんな大きな光り物が夜空を飛んだのだが、翌日になっても誰もこの光り物を目撃したという話題もあがらず、ただ自分だけが目撃していたのだという事で、暫くこの話を封印していたという事である。