仙人峠の手前に、樹木が水没している神秘的な場所がある。そこには
砂地もあり、テントを張れるようになっている。
上には国道283号線が走り、道路から見下ろして見ると、テントの色合
いが否が応でも目立つようになっている。
そこは周辺に住む動物達の水飲み場にもなっており、夜中に目を瞑って
聞いていると、上方から車の走行する音。まだ眠りについていない、鳥達
の囁き。パキパキと小枝を折って進んで来るかのような、小動物の足音。
そして、耳に纏わり付く蚊の羽音が響き渡る。
夜半から明け方までに様々な音が響き渡るのだが、その中に
ズルッ…ズルッ…
という、何かを引きずるというか、這いずるような音が聞こえる事がある。音
というものは、自分の人生で経験したものと、得た知識によって判別できる
音がほとんどである。ところが、この引きずる音だけは判別できないのだ。
とにかく興味があるのならば、一度は夜半を通じて音を探って欲しい場所
ではある。